関西夫夫 クーラー6
「せやから、俺には家族はないって言うたやろ? 元々、縁切りしたんは、浪速の家のほうや。二度と敷居は跨ぐな、と、命じたんを覆すつもりなら、当人らが頭を下げるのが筋ちゃうか? 金で片つけて、俺を動かしたいっちゅーんやったら、今の三倍でも足りひんぞ。・・・・勝手に人の生活の邪魔するんは、おかしいと思うんやが? それから、ここのほうが、あんたとこより会社の規模は大きいってことを考慮してない。そういう話やったら、お断りやから速やかに帰れ。二度と来るな。」
「浪速家は、あなたのご実家です。」
「実家の危機やから帰れって言うなら、潰れてしまえ、と、言うといてくれ。俺のとこへ持ち込まれても迷惑なだけや。金返せとか言うことやったら、ちゃんと弁護士をたててくれるか? うちも法務部の人間を寄越すから。」
「なんてことをっっ。ご家族が大切でしょう? 社長や専務が、そうおっしゃってるんですから、素直に戻ってくだされば、何もなかったことになります。」
「ならへん、ならへん。あいつらのことやから、俺に保険金でもかけて殺すぐらいのことはしよる。」
軽く手を振って冗談交じりに言うたら、おっさんは、「この親不孝もんがっっ。」 と、立ち上がり怒鳴った。その声で、待機していた東川さんが飛び込んでくる。
「東川さん、話は済んだ。二度と取り次がんでええわ。・・・・浪速の家が、何をしようと俺は知らん。あんたらが、好き勝手に引いた図面通りにする必要は俺にはない。これ以上に邪魔すんねやったら警察、呼ぶ。」
睨み付けて、執務椅子のほうに座った。タバコに火をつけて、ぷかぁーと吐き出した。そら、俺の旦那が商売始めて、俺の旦那が一緒に仕事したいって言うたら、俺は一も二もなく会社辞めて合流する。俺の力が必要やと俺の旦那が言うなら信じられるが、長年、付き合いもない浪速の家に言われても従う道理はない。
「おまえみたいなんに情けをかけてる社長が哀れや。」
捨て台詞を吐いたおっさんに、俺は笑った。
「情け? かけていらんわ。うっとぉしいっっ。」
「せいぜい、野垂れ死ぬ目に遭ってしまえっっ。」
「あはははは・・・俺のパトロンが、そんなことするか、ボケが。やったら、俺のパトロンも一緒に野垂れ死ぬわ。あはははは・・・傑作やな? 東川さん。」
「部長、もうその辺で。」
あまりの罵声の応酬に東川さんが、苦笑して、そのおっさんを引き摺りだした。あんだけ盛大に啖呵切ったら、もう来られへんやろう。次からは門前払いにしても問題はない。こちとら、そんな言葉ぐらいで怒ることもない。年季が違う。堀内に散々に投げられた罵声で、俺は慣れている。
作品名:関西夫夫 クーラー6 作家名:篠義