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関西夫夫 クーラー6

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忙しい平日に辟易していたが、休みに俺の嫁とデートできるのは楽しい。とりあえず、廉価品の夏のスーツを買い、そこで形状記憶ワイシャツも買った。二着が、ぱぁになったので、俺の嫁の分が二着、それから、俺が、ちょっとええやつを一着。俺の嫁は、ほとんど対外折衝はせぇーへんから、安物のスーツでええらしい。たまには、ぱりっと麻の一張羅でも、と、俺は勧めたが、シワになるしクリーニングが必要なもんはいらんと言い返された。
「パーティーとか会議とかあるやろ? 」
「俺は行かへんがな。そういうのの担当は東川さんや。俺が、ええベベ着てても高そうには見えへんから勿体無い。おまえは、外へも出るんやから、ちょっとええの買うとけ。ほら、これは? 」
「ドアホッッ、ダブルのスーツなんか着てたら、今時、どつかれるわっっ。シングルでええねん、シングルで。」
「さよか? 色映りはええと思うねんけどなあ。」
「ほな、同系色のシングルにするがな。・・・こういうのか? 」
「あーそれそれ。」
「うーん、基本は紺色か黒やねんけどなあ。灰色はええやろか? 」
「たまには、ええんちゃうか? 」
「まあええか。なんかの時に使える。ほな、俺は、これ。おまえのは・・・これとこれ。」
 俺の嫁は衣服なんかに興味はないので、俺が選んだものを着る。ワイシャツも基本は白。たまに軽いストライプ程度なので、とても簡単に決まる。ネクタイなんか、本気で適当やが、俺の嫁は気にしない。毎日、俺がコーディネートするものを着ていればおかしくないと思ってるかららしい。
「買出しは、これと日用品やけど、一端、休憩するか。それとも早めにメシしばくか? 」
「混んでるからメシにしよ。ほんで、午後から、だらだらしとったらええ。俺、本屋に行きたい。」
「へーへー、日用品買おてる間は、本屋におってください。荷物だけ置きに帰って、晩飯するけ? 」
「いや、もうええやん。なんか適当なもん買って、家で食べよ? 」
「せっかくのデートやのに、つれないわあ、うちの嫁。」
「おまえが、腰痛の原因なんやがな? もう、かなり草臥れてきたんで、夕方まで歩くのは無理。」
 まだ、昼前の時間で、夕方までは六時間以上ある。さすがに、それだけの時間、歩くのは無理らしい。原因は、おまえが腰振りまくったからで、俺ではない。いや、原因の半分は俺かもしれんが、積極的に参加したのは、俺の嫁や。
「うーん、ほな、昼飯食うて、おまえ、本屋。俺、ホームセンター。終わったら、連絡する。」
「そんでええ。晩飯、うどんとかでええ。」
「いや、焼肉。俺が食いたい。とりあえず、タクで帰って休憩してから再出撃ってことで、どない? 駅前に焼き肉屋あるやん。あれ、いわそ? 」
「そんでええよ。」
「ぐふふふふ・・・ほんでスタミナつけて第二戦じゃ。」
「・・・・あほ? 」
「あほでもちょんでも結構。・・・俺は欲望に忠実に生きる。」
「あーはいはい。好きにしてくださいや、花月さん。それより、昼は? 何すんの? 」
「晩がヘビーなんで、昼はカフェめしとかで、どない? たまには洋物もええかなって。」
「スパゲティとかある? 」
「あるんちゃうか? とりあえず、麺から離れてくれへんか? ランチプレートとかやったら、あっさりしてるって。」
「なんでもええ。」
 ほな、予約したとこへ行きまひょ、と、俺は携帯を確認して店を目指す。さすがに、土曜日なんてのは、予約しとかんと食べられないので、ちゃんと予約した。カフェめしなら、割とボリュームもあるし、野菜も多いから、俺の嫁でも食える。
「ナポリタンとかええな。」
「それ、昭和の喫茶店メニューなんで、あらへんと思う。おしゃれーなボンゴレとかトマトソースのペスカトーレとかは? 」
「それは飽きる。それやったら、明太子パスタとかがええ。」
「そんなんあるかなあ。まあ、なかったら、適当なとこで諦めてや? ランチメニューには、そんなんなかったから。」
「まあええわ。俺が食えるの選んだって。」
 あまり食事に興味はないので、俺が選んだら、それが栄養だと理解する。そんなわけで、俺がメニューも選ぶ。どんだけ愛情注いでも潰れない俺の嫁は、可愛い。



 週明けから通常勤務なので、関西支社に出勤する。仕事のほうは、他の面子がやってくれてるので、それほど忙しくない。東川さんから、勧誘の話は聞かされた。とりあえず、外部からの電話は手前で止めるが、来訪されたら対応はするように命じられた。
「話を聞いたるぐらいは、しゃーないやろ。あかんかったら大声出してくれたら、わしらの誰かが駆けつけるっちゅーことでええか? 」
「なんでもええ。とりあえず、断ったら、ええねんやろ? 」
「そうなんやが、お涙ちょうだいとか、相手も戦法は考えてくるからな。つい、うっかり頷いたら、えらいこっちゃで? みっちゃん。」
 お涙ちょうだい、と言われても、うちには、そういうものはない。あったとしたら、親が先行き危ういとか、そういうネタであろうか、と、考えて、俺は笑った。二度と敷居を跨ぐな、と、おっしゃったのは、母親のほうで、俺は完全に縁切りされたからや。
「うーん、誰が死にかけてても、俺に関係はないんやけどなあ。他には? 金とか地位とかかな? 」
「まあ、そんなとこやろう。あざとい方法やったら、おまえを怒らせて殴られるっちゅーのもあるけど。」
「いや、みっちゃん、子供の頃の話とか持ち出されたら、結構、辛いもんがないか? 」
「え、子供の頃? ・・・・さて、俺、そんなこと言われても・・・あんまり覚えてないしなあ。」
 というか、ほとんど子供の頃の記憶に両親は出てこない。基本、祖父母しか俺は暮らした記憶がないので、両親に何かしてもらったことはないと思う。あったとしても、俺が覚えてないし、確か、養育費を祖父母に渡してたはずやから、それについては借金と言われる可能性はある。
「借金あるかもしれへんけど・・・時効やんな? もう、十数年前のことやし。借用書もないし。」
「なんぼや? 」
「俺が生まれてから十歳ぐらいまでは、祖父母が金貰って育ててたはずや。それ、借金やって言うてたよーな気がする。」
 周囲は、俺の言葉に一瞬沈黙して、大きな息を吐き出した。確か、祖母が死んだ時に、金食い虫とかゴク潰しとか言われたと思う。葬式への参列も一般席で、骨上げもさせてもらってない。
「あのな、それは借金とは言わへん。養育費貰ってたんは、おまえやなくて育ててた人や。おまえの借金とは言いにくいぞ。」
「そーなん? なんか二千万くらいかかったって言われたんや。返せって言うてたと思うで? 」
「ほんで? 」
「ないもんはないって言うたと思う。それで、入学金とかだけ支払ってくれて縁切りされたはずや。」
 あとは、バイトして学費は稼いだ。高校も大学も、同じように稼いで、なんとか暮らしてたんで、そこからは両親とは連絡すら取ってない。高校の頃に、堀内に保証人になってもらって部屋も借りて家も出た。そこからは音信不通やった。大学の入学金なんかだけは通帳に振り込まれてたんで、大学も、それを使った。
「それを借金って言うんやったら、親子関係がないがな。」
作品名:関西夫夫 クーラー6 作家名:篠義