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私の読む「紫式部日記」後半」の残り

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 日が高くなる頃に中宮様の御前参る。小少将の君は、桜重ね織物の袿・赤色の唐衣・いつもの摺り裳を着ていた。私は紅梅の重袿に萌黄の表看を着て柳の唐衣、裳の摺り目は派手なので小少将の君のと取りかえてしまいたいくらい若づくりになった。主上附の女房十七人が中宮の側にお出でになる。弟宮の賄い役は橘三位、取り次ぎ役は、端に小大輔と源式部奥に小少将。帝と中宮は御帳台の中にお二方いらっしゃる。朝日を浴びてまばゆいほど此方が恥ずかしくなるような御前である。帝は貴人の常用服直衣・小口袴。中宮はいつもの紅・梅・萌黄・柳・山吹の重ね袿、それに表着は葡萄染の織物とを着重ね、表白、裏青柳の小袿重ねて、裳・唐衣は仕来りによって略されておられる。紋も色も珍しく今風である。私は中宮の御前ははれがましいので、奥の方にこっそりと滑り込んでじっとしていた。中務の乳母が弟宮をお抱きして御帳の前に現れる。中務乳母は、きめが美しくて、よそよそしいようなところのない容貌である上に、ただゆったりとしていて堂々たる有様で、そういう風に誰もがあってほしいというほどに才気ある風采である。葡萄染めの小袿、無紋の青色の表着に桜の唐衣を着ていなさる。 その日集まった人々の装束はどれもこれも善美を尽していたのに、袖口の配色をまずく重ねた人が、あいにく御前の物を取りさげるということになって、大勢の上達部殿上人に、その前へ出て行ってすっかり見つめられてしまったことだと、後になって宰相の君などは悔しがっておられた。とはいえ実のところさほど失体でもなかったのです。色あいがばっとしなかったのである。小大輔は紅単衣に、上に表紅裏蘇芳の紅梅重ね、濃いのと薄いのを五重ねを着ていた。唐衣は桜重ねである。源式部は、濃い紅の袿の上にまた色の似通った紅梅の綾の唐衣を着ているようでした。唐衣が織物でないのが悪いというのであろうか。それは禁色なので無理な注文というもの。晴れ晴れしい場合であるからこそ、失敗が側からちらりと見えたような有様をも、とりたてて云々することもお出来になるだろうが、衣裳の優劣はそう簡単に批判できるものではない。
 お餅を差し上げる行事も終わって、御食膳など取り下げて廂の御簾を揚げるときには、上﨟達は御帳の西表の間主上の常の御座所に、並んで座っていた。三位の上女房を始めとして典侍・内侍司の次官・従四位相当の輔達も大勢集まっていた。中宮附の女房は、若い女房は長押の下の方に、東の廂、南の障子を開けて御簾を掛けて上﨟は座っていた。御帳の東の狭いところに、大納言の君と小少将が居るのでそこへ寄っていって座って祝宴を見る。
 帝は清涼殿の東廂にあり、畳三畳の上に錦の縁をつけた唐綾の茵を敷く平敷きの御座にいらっしゃって御膳を並べた。御食膳は、その作り様がいいようもなく善美を尽してある。
 廂の外の簀の子に北向きで西を上座にして、上達部の席がある。左・右内大臣、東宮の大夫道綱、中宮の大夫、四条の大納言、それから下は見ることが出来なかった。管弦がある。殿上人は、私のいる対の屋の東南に当っている廊屋に座っている。地下の楽人の役は定まっている。地下は昇殿を許されぬ者。奏楽の際、太鼓、羯鼓等の打物は階下で行うのである。景齋朝臣・惟風朝臣・行義・ともまさ達が並ぶ。階の上で四条大納言が拍子を取り、頭の辨琵琶、琴は経孝朝臣、左宰相中将が笙の笛であるという。呂の声調で催馬楽「安名尊」次いで「席田」「この殿」が謡われた。曲だけは、唐楽の迦陵頻(かりょうびん)序破急ある中、破急の部分だけを奏した。階下の座でも調子をとる笛を吹く。歌に拍子を打ちまちがえて叱られる。それは「伊勢の海」であった。右大臣和琴が上手いと褒めそやされる。相当酔ってくだを巻いておられたようだが、その果てには大変な失態を成されたが、それを見ている私の身体までひやりとしたことでした。殿より主上への御贈物は箱に入れた笛が二つであった。
          紫式部日記 終わり