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関西夫夫 クーラー3

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コンビニまでは、十分とかからへんのて、松葉杖で、ひょこひょこと歩いた。うちの会社の前には、長いこと車を停めておくスペースがないので、待ち合わせ場所を、コンビニにしたからや。そこで、適当に弁当を買うか、どっかのファミレスへ寄って食べるか、ということになっている。包帯を巻いてあるんで、靴は、はいらへんから、サンダルで移動している。大通りへ出たら、すぐにコンビニなんで、四つ角を曲がろうとしたら、前方からクルマがきた。ライトが上向いてまぶしい。

・・・・このくそがっっ・・・・

 人通りのないとこやから、ハイビームをかましてやがる。悪態をついて、路地に曲がろうとして、はっと気付いた。いきなり扉が開いて突進してきた。それもスピードがあがっている。

・・・はあ?・・・・


 またか、と、俺は、なんとか路地に入ってかわした。車種を確認しようと思たが、ハイビームで目をやられてて、よう見えへん。この路地は狭いから、クルマは入ってこれへんので、まず立ち止った。

・・・・えーっと・・・俺が狙われてる? ・・・・


 十日前と、まったく同じシチュエーションとなると、俺でも考える。でも、俺に、そんな恨みを感じてるアホがおるか? というところで引っ掛かるのだ。基本的に、俺は表には出てないので、仕事の関係で轢かれるほどの恨みを買うことはない。たまに、どっかの店長に警告して罵られたりすることもあるが、それぐらいで、相手もやらへんやろう。やったとしても一回や。


・・・やっぱ、クソガキの悪戯かな・・・時間的に、俺がバッティングしてるだけかもしれへんな・・・・


 そのほうが納得は出来るので、それで決着しとくことにした。とりあえず、俺の旦那には内緒にしておく。喋ると余計に怒るし心配する。

 それから金曜日までは、何もなかった。痛みも退いたんで、松葉杖をせんと歩いている。時間も、十一時で、この間より遅い。やっぱり、あの時間帯なんやな、と、コンビニに向かう。宣言通り、俺の旦那は、月曜から金曜まで、きっちりと送迎してくれはった。今は定時上がりできる時期やったかららしい。ひょこひょこと歩いてたら、路地の角から俺の旦那がやってきた。おう、と、手を挙げて挨拶して近寄ろうとしたら、旦那の背後からハイビームや。
「花月、避けっっ。」
 大声で叫んだから、旦那も気付いたんか、慌てて端っこに寄る。俺も慌てて、壁際まで寄ってやり過ごす。今日は、扉が開かなかったんで、それでやり過ごせた。
「大丈夫か? 水都。」
「おまえは? 」
「俺も避けた。クルマは外車やったわ。・・・・たぶん、小ベンツのシルバー。車番まではわからんかったけど。」
「あれとは限らへん。俺ら、神経質になってるしな。」
「まあなあ。確かに、ここ、街灯も少ないしハイビームで走るわな。・・・せやけど危ないな。」
「十日前からな。それまで、そんなに走ってる車は見たことない。」
「クソガキが、あほな遊びでも始めたっちゅーことかな。・・・・死にさらせっっ、ぼけがっっ。」
 俺の旦那は、悪態をつくと俺の横に並んで、俺からカバンを取上げる。もちろん、弁当と水筒の入ったカバンや。ほんまに、一週間、弁当もしてくれた。このほうが外食するより安上がりやからと、自分の分も詰めてた。
「今日は、ゆっくり食事しよう。難波やったら遅までやってる店がある。」
「せやな。どっか連れて行ってくれ。」
「信州ソバなんて、どうや? それに天麩羅つけたら、ええ感じちゃうか? 」
「ああ、そういうのええな。」
 足を引き摺っているので、少し歩くのは遅い。俺の旦那も、ゆっくりとした歩調で合わせてくれている。大通りに出たら、深夜になりつつあるのに、まだまだクルマは多かった。
「月曜に病院行って、松葉杖返してくる。」
「しばらく借りといたら、どうや? それあったほうが、怪我人に見えてええんちゃうか? 」
「あれ、案外、邪魔やぞ? それに歩くんは、もう大丈夫や。」
 コンビニの駐車場に停めてた車に乗り込んで、ふう、と、息を吐く。なんとか一週間、出勤できた。これで、通常に戻れる。
「おおきに、花月。助かったわ。」
「なんのなんの、これぐらいはかまへん。俺も久しぶりに運転できて楽しかった。来週は、ちょっと遅なるから、無理なんやが、おまえ、タクシー使い。」
「せやなあ。朝は、タクシーにしようかな。」
「しときしとき。俺も、そのほうが安心や。・・・・まだ、痛いんやろ? 」
「うん、力入れるとな。」
 全治二週間と言われているが、まだ、左足に体重をかけると、チリチリと痛い。一緒に暮らしてる俺の旦那が気付かへんわけがないので、素直に申告した。


・・・・あのクルマ・・・ほんまに、俺を狙ってないんかな・・・・


 時間帯やと思てたが、今日の車は、ほんまに違うかったか自信はない。しばらくは用心することにして、俺の旦那の太腿辺りを揉んでやった。
「・・こら・・・」
「あとで、サービスさせてもらうで? 」
「ストリップとか裸エプロンはやめてや。俺、おまえの背中で萎えるで? 」
 俺自身は、見えないので、なんともないが、俺の旦那が言うには、背中が死体のような有様らしい。なるべく、背中を見ないように俺の旦那はしてたほどやった。まあ、あんだけ派手にぶつかったら、色も変色するやろう。



 日曜に、俺の旦那がクリーニングを出しに出かけた頃合で、電話がかかったきた。相手は、堀内やった。
「生きてるか? みっちゃん。」
「なんとかな。わざわざ、休みに何事や。」
「ここんとこ、忙しゅうてな。平日は電話する暇があらへんかったんや。・・・・犯人捕まらへんらしいな? 」
「らしいな。あれからも、何度かやられそうになったで? ポリも、そこいらのチェックしゃーへんもんかな。」
「はあ? 何度かってなんや? あれだけ、ちゃうんか? 」
「あからさまに、扉開けて突っ込まれたんは、あれから一回やが。ハイビームで走ってくるのは、二度ほどあった。同じヤツかはわからん。せやけど、花月が言うには小ベンツのシルバーやって言うてたから、嘉藤さんの目撃したやつとは被ってる。・・・・あんな遊び、ポリに仕掛けたらええのに。民間人にやるなっちゅーんよ。」
「・・・おまえ、それ、狙われてるんちゃうか? 何をやった? 」
「なんもしてへん。ここんとこ、店長に警告とかしてへんし、これといって怒鳴ったこともない。・・・あんたとちゃうんか? 俺は、あんたの愛人になってるやろ? 」
「いや、わしも、関西へ戻ってない。・・・・ああ、せや、一番の容疑者がおるがな。」
 くくくく・・・・と底意地の悪い笑い声を上げて、堀内が、「保険金殺人や。」 と、言い出した。
「あんた、俺に保険金掛けたんか。」
「ちゃうがな。おまえの旦那や。おまえに多額の保険金をかけて、誰か雇って事故死させたら、保険金成金や。」
「・・・・死ね、くぞじじい。」
 よりにもよって、俺の旦那を犯人扱いしくさるので、ついつい本音で怒鳴ってもうた。そんなことしたって、俺の旦那に保険金ははいらへん。だいたい、籍も入れてないのに、俺の保険金受取人が、俺の旦那やったら、あからさまにおかしいっちゅーねん。

作品名:関西夫夫 クーラー3 作家名:篠義