関西夫夫 クーラー2
まあ、やりたい盛りでもないし、それほど盛り上がらなくてもやることはやれる。俺の嫁の背中は見ないようにして、両手を動かした。
風呂でやると、後片付けは簡単なんやが、逆上せる確率が高い。あんのじょう、俺の嫁は逆上せて、ヘロヘロになった。バスタオルで拭いて、とりあえずベッドまで運んだ。
「・・・あーすっとした。なあ、花月、足りひんのちゃうか? 」
さくさくと拭いて、パンツをはかせたら、俺の嫁は、そんなことをおっしゃる。顔真っ赤にして、へらへら笑ってるやつに無茶できるほど、俺は鬼やない。
「とりあえず、湿布貼るからうつぶせ。ほんで、終わったらメシ。」
「へーへー。その前に水。」
「待て、湿布が先や。」
逆上せて身体が茹ってるから、余計に背中はおかしな色合いになっている。これ、ほんまに元に戻るんやろうか、と、ツッコミたくなるぐらいにエグイ。大判の湿布を背中に貼って、パジャマを着せる。それから、足のほうも圧迫包帯で固定した。これで完了や。
「どっか痛いとこないか? 」
「ない。もう、だいぶ楽になってるって。まあ、足はちょっと痛いけどなあ。こればっかりは日にち薬やて医者にも言われた。捻挫のほうが固定せぇーへんから治りは悪いらしい。」
「まあ、あんま動かんことや。月曜から送迎したるから。」
「は? 」
「とりあえず一週間、レンタカーを借りた。朝、おまえを送って、俺は職場に出勤する。帰りも連絡してくれたら迎えに行く。そういうことにした。」
俺の旦那は心配性なとこがある。あるが、そこまで過保護にせんでもええろう。と、反論したら、駅の階段と満員電車なんか無理に決まってるやろ、と、叱られた。確かに、人だらけの朝の出勤に、松葉杖ついて移動するのは危ないかもしれへんとは思う。思うけど、俺の旦那の職場は、俺とは逆方向にある。わざわざ、俺を送って職場に向かうとなると一時間以上、余計に時間がかかる。
「おまえ、えらい遠回りやで? 」
「朝いつもより早めに出たらええだけや。ほんで、弁当と水筒も持って行き。ほんだらメシも買いに出やんでもええ。」
「いやいやいやいや、花月はん。そこまでせんでも。昼は誰か買うて来てもらうやん。それに行き帰りが心配なんやったらタクシーにするから。」
「もう契約してきた。一週間だけはやる。」
「おまえ、アホやろ? 」
「アホで結構や。さあ、メシ食おか? 歩けるか? 」
「お、おう。・・・いや、そーやなくて。」
「これ以上、俺の嫁を傷モンにされてたまるかっっ。ほんま、やったヤツは道頓堀に叩き込みたいとこじゃっっ。」
あーなんか本気で怒ってはるわ、俺の旦那。俺よりムカついてるらしいので、大人しく従うことにした。松葉杖は一週間ぐらいで外れるらしいから、そうなったら見た目にもわからへんなる。それまでは、俺の旦那に甘えておくことにした。
いつもより小一時間早く出社して、ソファに転がってたら、東川さんが、びっくりしてた。事情を説明したら、あんぐりと口を開けた。
「レンタで送迎? どこまで、甘やかしてんねん? 」
「怒ってるから逆らえへんのや。とりあえず、一週間はやるらしい。・・・それはええから仕事の引継ぎして。」
「怒ってるって・・・あのバクダン小僧が? 怒ってるから、送迎すんのか? 」
「これ以上、俺が使いもんにならへんだら、旦那はあかんって言うてた。・・・まあ、ラッシュは俺も、怖いなあとは思てたし。帰りも来るらしいで? 」
「さよか。佐味田が言うには、後の被害者から、車種は、なんとなく特定できたらしい。ただ、それだけでは探すのは難しいんやと。車番がわかったら一発らしいんやが。」
「もう、それはええ。データは揃てるんか? 東川さん。」
「ああ、土日の分は嘉藤がやったから、まだチェックしてないんで、火曜あたりから始めといてくれるか? 」
一週間丸々のチェックとなると時間がかかる。関西だけでも数店舗あるから、そこいらから始めることにした。売り上げやら資金の流れやらをチェックして支払いもチェックするとなると、一日では無理で、二日ほどは、そっちに手を取られた。これに現在進行形の今日の業務もあるから、なかなか終われへんということになる。ある程度は、他の人間がチェックはしてくれるとはいえ、細かいとこまでは無理や。水曜も区切りがついたら、九時やった。すでに、全員退社して、誰もおらんくなってる。携帯でメールを送ったら、俺の旦那は、すでに最寄のコンビニの駐車場に居てるという返事や。
やでやで、と、戸締りして電気を消した。なんとか、通常業務だけになりつつある。給料日前の週やったから、大きな売り上げもなく、これといっておかしなものはなかった。
作品名:関西夫夫 クーラー2 作家名:篠義