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チンタ 残してゆく じゃじゃ馬さんへ

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7 ブルース・カフェ



(1)

君と
一つテーブルに座り
いつもの
ラマの歌を聞く

ごくありふれた
ことにも思え
あるはずのない
ことにも思えた

あの日の君は
ほんとにくるくる
表情を変えた

自分のことを
どうしてラマに
話したのかと
ふざけて僕を
叩いて怒り

歌が上手いと
ラマが褒めると
謙遜しながら
はにかんで

ステージに
呼ばれたときに
至っては

僕の腕を
つねりながら
照れて
むくれて
途方に暮れた

君のあの日の
百面相は
となりで見ていて
楽しかった

他人の視線を
気にしない
君らしい
喜怒哀楽を
見た気がしたから
嬉しかった


(2)

君の口から
身に覚えのある
言葉がこぼれて
絶句した

想像しても
いなかった

いつの間に君は
僕の詩を
憶えていたのか

歌う気に
どうしてあのとき
なったのか

でも
何より
迷いのない
その声音を聞けば

君が今まで
どれだけ
何度も
口ずさんでは
諳んじたか

自惚れる
つもりもないけど
察しはつくよ

自分の詩なのに
自分の詩では
ないような
そんな不思議な
ひとときだった

応募もしてない
コンテストに
優勝なんか
ありえないと
初めて出逢った
図書館で
大げんかした

僕たちの
始まりだった
あの詩を今
ここで聞く

刺々しくて
すさんだ
僕の詩の文句を

のびやかな
君の声が撫で
慈しむように
包んでくれた

驚いて
気恥ずかしくて
嬉しかった


(3)

見ず知らずの
女の人に
タクシーを
譲った僕を

声をたてて
君は笑った

そして
家まで
歩いて帰ると
無茶な気まぐれを
言い出した

でも君が
言わなかったら
きっと僕から
そう仕向けてた

お手伝いさんが
要るか要らないか
帰る道々
大激論

もちろん互いに
譲らなかった

雨上がりの
木の下に
君を呼んで
幹を蹴った

蹴らなくたって
成り行きなんか
火を見るよりも
明らかだけど

でも
ふざけてみたかった

気がねなく
わだかまりもなく
ふざけてみたかった

案の定
君はむくれて
体当たりを
食らわせて
そして
笑い転げた
案の定

家の前まで
着いたとき
僕の家族の
ことを訊いたね

いつかはと
思ってたから
冷静に話す
いいチャンス
だったから

君があんなに
遠慮がちに
口ごもることなんか
なかったのに

それどころか
僕を気づかい
途中で話を
さえぎった君

自分が迂闊な
ことを訊いたと
眉をよせて
謝った君

心配いらないよ

気を悪く
するぐらいなら
最初から
答えやしない


(4)

別れ際に
しようとしかけて
しなかったこと

意気地なしと
思ったんなら
笑っていい
本当に
そうだったから

何も言わずに
目を閉じた
君の心に
一瞬甘えたかったけど
応えるべきかと
迷ったけど

でも今は
あれでよかったと
思ってる

思い上がらなくて
すんだ
自分の気持ちに
自惚れなくて
すんだ

君をどれだけ
想えるか
試練に出逢う
前だったから