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私の読む「枕草子」 93段ー100段

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「何で歌は詠まずに全然離れているのです。これがお題ですおとりなさい」
 と、題を下さろうとするのを私は遮って、
「然るべきことを拝承いたしまして、もう歌を詠まなくてよいことになりましたので、一向考えてもおりません」
と、申し上げる。
「不思議なことだ。本当にそんな事がございますか。どうしてそうお許しになります。とんでもないことだ。まあよい、他の時は別として今夜は詠みなさい」
と責められる。

 きれいさっぱり聞き入れずにいるうちに、
人々は皆出詠して優劣など判定される折に、
中宮がちょっとしたお言葉を書いて私に投げておよこしになった。見ると、

 元輔(もとすけ)が後といはるる君しもや
今宵の歌にはづれてはをる
(元輔の子といわれる程のあなたが今夜の歌の会に仲間外れになっている法がありますか)

と書いてあるのを読むと、興のわくことたとえようもない。可笑しくて笑うと、
「どうした、何かあったのか」
 と、大臣はお聞きになる。私は、

その人の後といはれぬ身なりせば
今宵の歌をまづぞよままし
(元輔の子といわれる身でありませんなら、今夜の歌を真先に詠みましょうに)
憚ることがございませんならば、たとえ千首の歌でも、みずから進んで詠んでさし出しましょうに」
と中宮にお答えをした。

【一〇〇】

 長徳三年(九九七)六月以後、職の御曹司に在住された頃に、八月十余日の月が明々と照り輝いた夜、主上付き女房の右近内侍に琵琶を弾かせて、縁近くにお座りになっておられた。

女房の誰かれは話し合ったりする中で、私だけは廂の間の柱によりかかって、何も言わずに伺候していると、中宮が、
「なぜそう黙っているのですか、物足りない」
と、仰せになるので、
「曲終收撥當心畫
四絃一聲如裂帛
東船西舫悄無言
唯見江心秋月白
(曲 終らんとして 撥(ばち)を收め 當 心を 畫き
 四絃 一聲 裂帛の如し
 東船 西舫 悄として 言(ことば)無く, 唯だ見る 江心に  秋月の 白きを)
曲の演奏の最後の部分で、(演奏の最後の 締めくくりに)バチを払って(琵琶の弦の) 真ん中をかき鳴らしておさめた
 四絃が一斉に裂帛の声をあげる。
 東の船や西の船などあちらこちらの船は、 ひっそりと無言であり
 ただ、長江の真ん中に秋の月が白く浮かん でいるのを(ひっそりと静かに)見るだけだ
 ただ秋の月の真意を考えているのでございます」
と申し上げると、
「なるほどそう言いたいところですね」
と、中宮は仰せになった。