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落書き~とある家族の歴史を伝えるもの~

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らくがき

 階段の真下の壁に落書きを見つけた

 誰が書いたのかと目を凝らしたら

 ゆかちゃん ひろやす あやか あここ(さやか) 四人兄弟

 と たどたどしい字で書いてある

 ははーんと犯人がわかった

 末っ子の三女は3歳の頃から自分のことを〝あっこっこ〟と呼ぶ

 何と小学三年生になった今でも〝あっこっこ〟だ

 何度か止めさせようとしてみたが 気をつけて見ていると

 家庭では〝あっこっこ〟 学校や外では〝さやか〟と使い分けしているので

 まあ 家の中だけでなら良いかと 止めるのはやめた

 恐らく壁に落書きしたのは少し前のことだろう

 今なら〝あここ〟ではなく〝あっこっこ〟とちゃんと書くことができる

 
 そういえば 私が子どもの頃

 まだ改築する前の玄関の壁に落書きがあった

 そこには へのへのもへじの拙い絵が描かれていて

 〝じゅんこ〟と書いてあった

 ちなみに 順子というのは私の父の妹 つまり叔母である

 今年もう77歳くらいになるはずだ

 つまりは順子おばさんが小さい時分に描いた落書きだろう

 叔母が書いたという落書きを見つけた時

 私は子ども心に不思議な感慨にとらわれた

 ここに確かな時間の痕跡がある

 今は大人になっている叔母にも私と同じように幼い頃があったのだと

 嫁ぐはるか前には 叔母も私のようにこの場所で遊んだのだと

 そう考えると 幼かった叔母の姿が 落書きを夢中になって描いている幼い女の子が

 眼の前に見えるような気がした

 幼かった私は小さな手の指先で叔母がかつて描いたへのへのもへじをなぞった

 たかが落書き されど落書き

 幼子が描いた拙い字と絵は 優しい時間の流れを経ても

 色褪せず その場所にとどまり 一家の歴史の一部を伝える

 その落書きも家の改築工事で取り壊され無くなった

 既に私は大人になっていた

 いつか我が子の書いた落書きも 子孫の誰かが見つけて

 不思議な懐かしさをもって眺める日が来るのかもしれない

 そんなことを思いながら 私は落書きをいつまでも眺めていた