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私の読む「枕草子」 31段ー38段ー

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 あの、唐国の玄宗の寵妃。白楽天「長恨歌」の女主人公楊貴妃(ようきひ)は、彼女の死後、玄宗皇帝は〔りんこう〕(臨エ偏に卩)道士をしてその魂魄の行方を尋ねしめた。道士は蓬莱で妃に遭い君命を伝えた。その折の妃の感泣のさまを「玉容寂寞涙闌干。梨花一枝春帯雨」と述べている。「梨花一枝、春、雨を帯びたり」と言っているのであるから梨の花はかの国では並たいていなことではあるまい。と思うのであるが、なんと言っても立派なことは他に比べる物がないと言うことであると悟った。

桐の木の花、紫に咲くのが大変珍しいのであるが、葉の広がりようがいやに仰山だけれど、他の木々と同日に論ずべきでもない。
 唐国に大層な名の付いた鳥が鳳凰である、特に選んでこの木だけにいるという、それこそ実に格別な感じだ。そのうえ、この桐は琴に造るといろいろな音が出てくるというのは面白いなど世間並みに言って済まされようか、実にそれこそ素晴らしいものだ。

 木の姿は醜くて嫌であるが楝(あふち)の花は大変かわいい。枯れたような感じで様子が変っている咲き方であるが、必ず五月五日に開花に逢うのが面白い。

(注)
楝(あふち)は今日の栴檀
「栴檀は双葉より香し」のセンダンはビャクダン(白檀)の別名であって,このセンダンとは違います。5 月の下旬頃に薄紫の小さな花が房状に咲きます。雑草でセンダングサ(コセンダングサ)というのがありますが,葉が似ているからです。


【三八】

 池は、かつまたの池・大和国添下郡。万葉集で名高い。磐余(いわれ)の池・大和国十市郡。一名埴安(はにやす)の池。
 贄野(にえの)の池・山城国相楽郡。蜻蛉日記・更級日記などにも見える。初瀬に参詣したときに水鳥が所狭しと居て大騒ぎをしていたのが印象に残って面白かった。

 水なしの池こそ怪しい名前である。何で水なしと名前が付いたのかと問うてみると、
「五月に雨が多く降る年は、この池は水という物がなくなってしまう。また、大変な日照りの続く年は、春の初めに水が多く湧き出る
のだ」
 と言われるのを、
「全然水が無く乾いているならそうも言おう
が、水があるときもあるのを一方的に名付けたのか」
 と言ってみたかった。

 猿澤(さるさわ)の池は大和国奈良にある。
采女(うねべ)が身を投げたことを聞かれた帝は、行幸されて采女を忍ばれたと言うことは大変めでたいことである。采女はウネメともいい、天皇に侍して飯饌をつかさどった女官のことである。
柿本人麻呂が「寝て乱れた髪」と詠んだと思うと笑止千万。
柿本人麻呂は
「わぎもこが寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞかなしき」(拾遺和歌集1289)
と詠っている。

 おまへの池。どんな心情で付けた名前か心ゆかしい。
 かみの池。狭山の池は、
「恋すてふ狭山の池の三稜草(みくり)こそ引けば絶えすれ我は根絶ゆる」(古今六帖・第六3955)と言う歌が面白いので憶えていた。
 こひぬまの池・はらの池は、風俗歌に、
「をしたかべ鴨さへ来ゐるはらの池のや、王藻は真根な刈りそや、生ひもつぐかにや」
 とある。面白くて憶えている。