漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
10―5 【郷】
【郷】、饗宴で二人向かい合って座る姿だとか。
そして今では田舎または里の意味。
その中でも是非行ってみたい【郷】は理想郷/桃源郷だ。さらに言えば、シャングリ・ラ(Shangri-La : 香格里拉)。
イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンは、1933年に出版した小説「失われた地平線」にそのシャングリ・ラを書いた。
チベットの未知の地域、つまりヒマラヤ山脈の西の果て、その崑崙(こんらん)山脈の方へ向かった辺りに、カラカル(Karakal)という名の8、500メートル以上の高峰がある。
その麓の霧の漂う谷間、その辺りがどうもシャングリ・ラらしい。
空気は澄み、水は清らかに流れ、草花は可憐に咲き乱れる。自然の中で生命を授かった生物すべてが活き活きと美しい。
そんな世界があると言う。
日々の煩雑さから逃れ、そんな所で暮らしてみたいものだ。
だが考えてみれば、我々は現代人。
ウォシュレット・トイレがない所……「ちょっと、どうもね」となってしまう。
ならば我々のシャングリ・ラ、それは一体どこにあるのだろうか?
それは、それぞれの人が求める条件、それを満たした【郷】となるのだろう。
恥ずかしながら、我が【郷】の七つの条件を紹介してみよう。
一、ネットが繋がること
二、大型モールや居酒屋があり、町に繋がる便利なこと
三、もちシャワー/ウォシュレット/ベッドが揃っていること
四、趣味活動の近場であること
五、近場にゴルフ場があること
六、周りに自然がある所、だが蚊がいないこと
七、災害から縁遠いこと
まさにそれはシャングリ・ラではなく、「俗人グリ・ラ」か?
そう、俗人【郷】なのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊