漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
7―2 【沙】
【沙】、水を表す「さんずい」が「少ない」と一緒になり、水辺の砂地の意味となる。
音は(さ)で、響きが良い。そのためか、「沙織」は女性名前ランキング上位に位置したことがある。
こんな【沙】に、姉妹漢字がある。それは「紗」。
こちらは「糸」が「少ない」となり、薄い絹織物のこととか。
それならば、同じ「さおり」でも、砂ではなく、「紗織」の方を好む人もいるだろう。
だが、そんな【沙】と「紗」。【沙】の方が熟語を断然多く作る。
その代表格が『沙汰』。
「汰」は分ける意味があり、砂を分けることとなり、そこから善悪を分ける意味となる。
そして、「地獄の沙汰も金次第」の裁決の意味を含むことになったようだ。
他に、色恋沙汰、刃傷沙汰、警察沙汰……等々、恐ろしい言葉ばかりだ。
だが、心和む熟語もある。それは音信の意味の『御無沙汰』。
御無沙汰でした、というところから会話が始まれば、『沙汰』することはないと、すべては許され、後は一気に盛り上がる。
そして最近、きっと皆さん御多忙なんでしょうね。あちらこちらで――『御無沙汰』の挨拶だらけなのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊