漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
38―5 【終】
【終】は、糸の末端を意味する「糸」偏に「冬」。
その「冬」は四季の「ふゆ」の意味だが、元々は編み糸の末端を結びとめた形だとか。
いずれにしても、末端末端で、【終】は必然的に「おわり」の意味になったのであろう。
そんな【終】の熟語で、難解な読みがある。それは「終日」と「終夜」だ。
「終日」は(しゅうじつ)でもあるが、(ひねもす)と読む。
『春の海 終日(ひねもす)のたり のたりかな』
与謝野蕪村の俳句の──ひねもす──だ。
「終夜」は(しゅうや)だが、(よすが)と読む。
『冬は落葉深く積みて 風吹く終夜(よすが) 物の囁く音す』
国木田独歩の「武蔵野」の一節だ。
【終】は、そんな情緒ある言葉を作る。そして、そんな中でも、最も旅愁を誘う言葉が『終着駅』。
女優・ジェニファー・ジョーンズと男優・モンゴメリー・クリフトがローマのテルミニ駅を舞台に、ラブストリーを演じた。
米国人の人妻メァリーはローマで一人の青年のジョヴァンニと恋に落ちる。
しかし、数日が過ぎ、帰国しなければならない。
いろいろな騒動が起こった。
しかし、メァリーは列車に乗って去って行く。
悲劇を知らずに。
そして、メァリーの新しい人生のドラマへと。
この映画の原題は「Stazione Termini」、それを日本語に訳せば「終点」。
しかし、この映画の内容からして、『終着駅』という言葉が生み出され、邦題として命名された。
旅の終わりに辿り着く駅、確かにそれは『終着駅』。
しかし、考えてみれば、それは決して終わりではないように思う。
そこからまた新しいドラマが始まる『始発駅』なのかも知れない。
本エッセイの漢字一文字の旅、ひとまず【終】に近付いたが、それはまさに新たな旅への――『始発駅』にしたいと思ってます。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊