漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
38―1 【冬】
【冬】、上部は編み糸の末端を結びとめた形であり、下部に氷りを加え、「ふゆ」の意味になったとか。
♪ 春が来た 春が来た ♪
こう歌えば誰しも浮き浮きする。
しかし、高村光太郎、余程【冬】にこだわりがあったのだろう、「冬が来た」と詩を書いた。
きっぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
公孫樹(いちょう)の木も箒(ほうき)になった
きりきりともみ込むような冬が来た
人にいやがられる冬
草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た
冬よ
僕に来い、僕に来い
僕は冬の力、冬は僕の餌食だ
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のような冬が来た
人にいやがられる冬、それを餌食にしてやると、なんと力強い詩だろうか。
しかし、ちょっと……「火事を出せ」って、おいおい、大丈夫か?
いずれにしても、寒さは辛い。
早く ♪ 春が来た 春が来た ♪ と歌いたいものだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊