漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
4―1 【微】
【微】、(かすか)と訓読みし、「わずか」なこと。その意味は、細い糸の端のように目立たないということらしい。
しかし、どの程度のものかがわからない。
だが、漢数字では「一」、「分」、「厘」、「毛」、「糸」、「忽」、【微】、「繊」、「沙」、「塵」……と小さくなる。
その中の【微】は100万分の1のこと。ほとんどないに等しい。
そして笑いにも微かなスマイルがある。
それはモナリザの微笑。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、その100万分の1の微笑みをスフマートという技法で描いた。
その口元辺りに輪郭を作らず、透明色で何度も何度も微かずつ上塗りをし、100万ドルの微笑を創り出したとされている。
そして、その微笑を万人に贈るために、左右の瞳の見つめる方向を違えた。これにより、どこから見てもモナリザは、自分だけを見つめて微笑んでくれているのだと錯覚に陥る。
そして御愛嬌にも――左目頭に吹き出物まで作って。
ナポレオンは浴室にモナリザを飾っていた。
うっとりとしながらシャンプーしてたら、あっと手が滑り、泡が飛んだ。
吹き出物はそのシミだとか。
ナポレオンよ、お前はバカかと叫びたくもなるが、今のモナリザは、つまりレオナルド・ダ・ヴィンチとナポレオンの合作ということになるのかな?
そんなモナリザ、たった100万分の1の微笑みと……プラス吹き出物で、今でも万人に、永遠の微笑を贈ってくれているのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊