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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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32―2 【業】

 【業】は象形文字。
 えっ、どこが? となるが、楽器を並べて懸ける器の形だとか。
 どうも上部は吊り下げるための、ぎざぎざのある木が横向けに渡してある。そして下は台座だそうな。

 うーん、【業】、なんとなくそう見えてくるから不思議だ。
 鐘や鼓の大きな楽器がこれ見よがしにそこに懸けてある。そんな状態は大げさであり、『業業しい』と言ったとか。その後「仰仰しい」になったようだ。

 そんな【業】、これにはいろいろな字がつき、数え切れないほどの熟語を作る。
 しかれども、事業/工業/商業と、いわゆるすべて仕事絡みだ。そして任務を受け仕事する意味の「務」と一緒になって、「業務」となる。
 サラリーマン社会では業務委託に業務妨害、そして業務不履行。このように業務が含まれる言葉はずしんと重い。
 しかし、その抑圧をふうっと解放してくれる魔法の言葉がある。

 それは――『業務の一環』
 飲み会もゴルフもすべて――『業務の一環』。
 果ては、社内のちょっと可愛い女性社員を食事に誘っても、それは――『業務の一環』だ。
 と、自分に言い聞かせれば罪悪感はどこかへ吹っ飛んで行く。

 こうなれば何でも『業務の一環』だ。
 気が付けば、いつも呪文のように唱えてる。たとえ部長の前で、そして女房の前でも言い放っても、すべてが許されたような気分になる。
 もう手放せない言葉、それは『業務の一環』なのだ。

 サラリーマンたちはいかにこの言葉に救われ、サバイバルしてきたことか。こんなことから座右の銘にしたヤツまでいるのだから、戒名も「釈業務之一環」にすれば良い。

 いずれにしても【業】という漢字、すべての熟語は重々しい。
 だが、その中でたった一つ、この『業務の一環』だけが、こよなく愛されているのだ。