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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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29―1 【得】

 【得】の左の行人偏は「行く」の意味。そして右部は、手の意味のある「寸」に「貝」が乗ってる形だとか。
 これらの組み合わせによる意味は、南方へと出掛けて行き、価値ある子安貝(貨幣)を手に入れること。
 つまり、ここから「える」の意味になったそうな。
 うーん、なるほどと感心してしまう。

 さて、この【得】は(とく)と読むが、同じ(とく)でもすぐれた品性を表す「徳」がある。
 ちょっとこの二つの関係がややこしい。

 店舗に物を買いに行ったら、店主が「これ、おとくですよ」と言い寄ってくる。
 この(とく)は【得】ではなく、「徳」だ。
 要は、「気高き商売をしてます、嘘はついてませんよ」という「お徳」なのだ。本当はお【得】の方が安いようで、思わず買ってしまうと思うが……。

 また、「早起きは三文のとく」、これも「徳」が正しい。三文の【得】ではないのだ。
 どことなく早起きした方が儲かるような気がするが……。

 どうも【得】という漢字、いつも暮らしの欲が絡まってしまうようだ。