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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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17―5 【雛】

 【雛】、それは「雛鳥」(ひなどり)のことで、鳥の子。一人前までにはまだほぼ遠いが、未来への可能性を充分秘めている。
 音読みでは「すう」と読み、伏龍鳳雛(ふくりゅうほうすう)という四字熟語がある。
 意味は、寝ている龍と、鳳凰の【雛】、これらのようにまだ世には出ていない。だが将来きっと大きな力や才能を発揮するであろう、そういう者のことらしい。

 そして、人間の【雛】を祝うのが雛祭り。
 芥川龍之介は、約九〇年前の大正十二年に短編小説「雛」を発表した。

 お転婆の十五のお鶴の家では、生活に困りお雛さんをアメリカ人に売り渡すことになった。お鶴はさほど愛着はなかったが、されど売られる前に飾っておきたい。
 飾りたいと言うと、父母兄がひどく怒る。もう手付けが打たれていて、それはすでに他人の物だとか。
 しかし、売り渡されて行く前夜、ふとお鶴が目を醒ますと、父がそれを飾っていた。
 あれは夢だったのかと、老いてしまったお鶴が振り返る。

 【雛】、それはいつも……、どことなく郷愁をそそる物語がそこにあるのだ。