漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
17―4 【嘆】
【嘆】、音読みで(タン)、訓読みでは(なげく)。意味は、現在の状況、事態を無念に思い、それを口に出して言うこと。
こんな【嘆】、元々の意味は……飢饉の時に雨乞いで、神に仕える人を火で焼き殺し、祝詞(のりと)をあげて神に訴える意味だとか。
まことに恐ろしい話しが根元にある。
しかし、こんなことも知らず、今を生きる現代人、まったく嘆き放題の日々のようだ。
そしてそれは、手慣れた祝詞ののようにも聞こえてくるから不思議なものだ。
こんなおぞましく、かつ慣れ親しんでいる【嘆】、実は一千年前のかぐや姫まで【嘆】いていた。
おのが身はこの国の人にもあらず。
月の都の人なり。
それを昔の契りありけるによりてなむ、この世界にはまうで来たりける。
いまは帰るべきになりにければ、この月の十五日に、かのもとの国より、迎へに人々まうで来(こ)むず。
さらずまかりぬべければ、思(おぼ)しなげかむが悲しきことを、この春より思ひ【嘆】き侍るなり。
これを意訳すれば……。
あたいは月の都の者なんえ。前世からの宿命やけど、この世に来てしもうたわ。
そやけど、もう月に帰らなあかんねん。
八月十五日になったら迎えが来てくれはるんよ。
翁はんがそれを悲しまはるとおもぉと悲しゅうて、この春からたんと……嘆いてたんどすエ。
時は一千年前、その頃の【嘆】、それはそれは京風で──、ちょっとSFチックどしたがな。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊