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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第11話~第15話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第11話
「鉱毒事件と暴動の渓谷」


 助手席の響が、いつのまにかシートベルトを外している。
俊彦の肩へ手を置いて、進行方向右側にひろがる渡良瀬川渓谷の美しさに
うっとりと見とれている。

 赤城山の東端で、急流の渡良瀬川と合流をした国道122号は
草木のダム湖で一息ついた後、さらに迫りくる山々の間を縫いながら、
ひたすら北上をつづけいく。
山間の道は、渡良瀬渓谷から片時も離れず、かつての銅山の街・足尾まで続く。
川に沿って走る単線の渡良瀬渓谷鉄道も、この山道と並走をする。
山道は今はさびれた足尾銅山を経たあと、さらに東照宮のある日光市をめざす。

 
 関東平野と日光を結んでいる、国道122号線は、
江戸と足尾銅山を結ぶ銅街道(あかがねかいどう)として整備されてきた。
牛馬たちが通った山道をもとにして、戦後になってから、本格的な
自動車道として整備がすすめられた。
この山道はまた、徳川家康が祀られている日光東照宮と江戸を結ぶ、
最短のルートとしても有名だ。
北極星をめざすことから『北辰の道』として知られている。


 かつては朝廷のある京都から家康の日光東照宮へ、
例幣使たちがこの道を歩いた。
京都から15日間をかけた旅の最後に、山間の峠道を進んだ。
さらにこの道は、はるか東北地方へも連なっていく。
特に会津との結びつきが深く、日光と会津を結んでいる
会津西街道に連結をする。
参勤交代の街道として頻繁に使われたため、随所に宿場町の
面影が残っている。

 
 「どこまで行っても、凄い渓谷が続いていますねぇ・・・・
 トシさん。新緑の頃なら、ここは別世界の美しさだと思います。
 紅葉も、きっとすごいだろうなぁ。
 冬枯れの季節じゃなくて、もっと季節の良い時にもう一度来たいですねぇ~
 ねぇ。ねぇったらさぁ」


 「肩を貸すのは構わないが、限度は守ってくれよ。運転中だからな。
 そういえばお前さんは、いったいいつまで、
 俺のところに居候をするつもりだ。
 このまんま、桐生に居着きそうな、そんな気配がしてきたぞ」
 
 「あら、迷惑なのかしら。
 あたしがトシさんのところに居着いたら?・・・・」

 「きっかけをつくったのは、俺の方だ。
 行きがかり上、今さらお前さんに、いい加減で出て行けとは言えん」


 「居心地がとってもいいんだもの。このまま居着きたいくらいです。
 なんなら、お嫁さんになってあげても良いけどなぁ」

 「まっぴらごめんだ。それじゃ、こっちの身体が持たなくなる。
 そんなに気にせず、気が済むまで居るがいい。
 どうせ殺風景な男の一人暮らしだ。
 すこしくらい華が有ったほうが、俺も気分的に明るくなる」

 「いきなりピンクの下着なんかが干して有ると、
 誰か困る人がいるんじゃないの?」

 「そういうときには、余所で会う。
 こらこら、子供が大人の事情に介入するな。
 油断も隙もできないな、お前さんて子は」

 「この綺麗な渓谷の水は、どこから流れてくるの?」


  「日光の皇海山(すかいさん)に、源流部がある。
 銅山で有名な栃木の足尾山塊の水を集めて、群馬に向かって流れだしてくる。
 山間を下った後、関東平野を横切って最後は利根川に合流をする」


 「銅山って、鉱毒事件を生んだ、あの足尾町のこと?」


 「よく知ってるね、そうだよ、その足尾だ。
 綺麗な水に見えるけど、ここは足尾鉱毒事件や川俣事件をひき起こした川だ。
 鉱毒のために、明治時代に大規模に汚染された河川だ。
 去年の大震災であちこちの地層がずれたため、いままで隠れて蓄積していた
 鉱毒が、あらたな環境汚染としてふたたび顔を出した。
 鉱毒事件は、過去の出来事として片付ける訳にいかなくなった。
 汚染されたのは川だけじゃない。
 一帯の自然環境も、銅山開発の排煙や鋼毒ガスなどの有害物質のために、
 壊滅的な被害を受けてきた。
 それだけじゃないぞ。
 払い下げられた国有林を、無計画に伐採をしすぎたため山林の荒廃が進んだ。
 その結果、渡良瀬川の洪水を増大させてしまったと言う、
 きわめて苦い過去の教訓がある」