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このホテリアにこの銃を (下)

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15 宣戦布告



マティーニ煽った
くらいでは
酔ってもくれない
冷めた頭で
あざ笑ってた
己の滑稽

当直を選ぶか
僕を選ぶか
君に
両天秤に
かけさせて

僕を選ぶと
期待していた
自惚れを
思う存分
あざ笑うしか

砂噛むような
やり場のなさの
紛らしようなど
浮かばなかった
ヴィラへの帰り

通りかかった外苑で
目にした事実は
呆れるほどに
笑止千万

これはこれは

誰かと思えば
当直のはずの
ジニョン
君かな?

となりは
総支配人と
お見受けするが

帰りの遅い
傷心の客を
2人揃って直々に
お出迎えとは
痛み入る

しかも
よりによって
今の今

腕まで組んで
仲睦まじく
お出ましとは
何とも皮肉な
目の保養

ジニョン

慌てて腕を
解かなくていい
弁解も
要らないよ

微笑ましい
その光景が
100の弁解
聞くよりも
はるかに雄弁

教会なんか
来られないのも
道理だったね

当直の
真っ最中で
時計に目をやる
暇もないほど
てんてこ舞いに
ちがいないと

盗難か
急病人か
さすがの君でも
手に負えないほど
緊急事態の
夜なんだろうと

頭では
納得しようと
懸命なのに

ぽつねんと待った
教会で
姿の見えない
君を恨んで
ひとり
いきり立ってた僕を
笑ってくれ

1度くらい
騙されたつもりで
僕を信じて
来てほしかった
それだけなのに

最初も今も
僕の望みは
君だけなのに
何一つ
変わらないのに

待ちぼうけでも
まだ足りない?

こんな惨めな光景を
これ見よがしに
見せつけられなきゃ
ならないほど

僕は
忌むべき極悪人?
信頼にもとる
人でなし?

「信じてたのに
信じられなく
したのはあなた」

今にも涙が
落ちそうなほど
その目は
うるんで赤いのに
反論は
いつになく
冷静だね

ジニョン

君の言い分は
至極もっとも

だけど僕には
100歩譲っても
通りいっぺんの
抗弁だ
他人ごとみたいに
酷くて冷たい
言い訳だ

信じられなく
なったから
信じないのか?

信じられなく
なったら最後
2度と再び
信じないのか?

ジニョン

心底信じるって
どういうことだか
君は知ってる?

何かを心底
信じるって
どういうことだか
知ってるのかと
訊いてるんだ

およそ
信じるに値しないと
頭は笑って
否定するのに
心が勝手に
信じたがること

心がひたすら
言うこと聞かずに
信じつづけて
しまうこと

僕は
そういうことだと
思ってる

風防室で
口づけた日に

僕の想いは
1つ残らず
君に渡した
そして
君の想いも
僕はもらった

少なくとも
あのとき以来
僕はそう
信じてる

君たち2人を
目の前にして
これほど惨めな
今でさえなお
疑いもせず
そう信じてる

ジニョン
前言撤回だ

君が迷わず
その男の
側に立つ今
君たちと僕が
2対1で
相対する今

どうしてもひとつ
勝手な意地を
張りたくなった

君を求める
代償ならと
喜んで
手を引く気でいた
ホテルの買収

手を引くのは
やめにする
成し遂げて
みたくなった

ソウルホテルは
必ずや僕が
手に入れる

僕を疑い
僕を拒んで
ホテルという
隠れ家に
君があくまで
身を潜めるなら

奴との過去を
懐かしんで
今なお後ろを
向こうとするなら

その隠れ家も
その男も
もちろん君も
全部残らず
ひっくるめて

僕のものに
してみせる
約束する

決して
本意では
なかったけど
今こそ
ゲームの始まりだ

ルール?
そんなものは
存在しない

勝ってみせる
ただそれだけ

お先に行くよ

おやすみ
ジニョン