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このホテリアにこの銃を (下)

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14 待ちぼうけ



たかが買収
されど買収

買収という
足枷ゆえに
君を永遠に
敵に回して
望みもしない
対峙をつづける
くらいなら

それならいっそ
賭けてみよう
そう思った

今夜
ここで
君に逢えたら

約束どおり
君が来るなら

この買収から
僕は一切
手を引こう

僕が仕掛ける
買収ゆえに
ホテルの前途に
君が無用に
心を痛める
くらいなら

僕が目論む
買収ゆえに
君が
ホテルの行く末に
涙を流す
くらいなら

夜が明けたら即
依頼主に
買収の
契約破棄を
通告しよう
そう思ってた

真夜中12時
約束の場所
待ちこがれても
人影はなく

10分過ぎ
20分過ぎても
教会の
はるか後ろの
重い扉は
コトリと動く
気配もなかった

判ってる

君が来るまで
このまま待てば
それで済む

義理堅さが
服着て歩く
君のこと
何時間遅れようが
必ずや現れる

待たせたことを
詫びながら
気の毒なほど
息せききって
駆け込んで来る

判ってる

でもジニョン
それは
今の僕には
来ないに等しい

冷酷
狭量
如何ようにでも
言ってくれ

1年365日
ホテルが
恋人みたいな君に
いや
ホテルの
人質みたいな君に
そうと承知で
強いた約束

しそびれた
あの痛恨の
懺悔をここで
この教会で
もう一度
やり遂げたかった

君を見初めた
顛末も
他でもない
この買収劇の
顛末も
すべて残らず
打ち明けたかった

だから逢いたい
真夜中でいい
せめて最後に
チャンスが欲しいと

一縷の望みで
半ば無理やり
強いた約束

「心が
信じたがってる」と

涙にくれて
うつむいた君を
諦めたくは
なかったから

1度くらい
ホテルも仕事も
かなぐり捨てて
僕のところに
来てほしかった

今日という
今日くらい
他のことは
全て忘れて
約束の時間
きっかりに
目の前に
立ってほしかった

ホテルよりも
僕を
選んでほしかった

まだそう
遠くない昔
この教会で

僕の肩
枕代わりに
まどろんで
帰る間際に
おもむろに
君が笑って
言ったっけ

「懺悔とやらは
もう終わり?
居眠りしてて
聞きそびれちゃった
いつかまた今度
必ずね」

もう忘れた?

それともあれは
あの場限りの
冗談だった?