ドラゴンの涙(1)
大きな手で胸を触られそうになって、慌ててカスミは強く振り払う。それでも、構わずに、クライブはより一層カスミの身体を強く抱き寄せると、満面に嫌みったらしい笑みを浮かべる。
「それ位の覚悟が君にあるのかな、俺を雇う」
「………」
「ないのなら……ちっ」
急に舌打ちをしたかと思うと、カスミの身体を横抱きに抱いて、クライブは床の上に転がった。
なにをっ、とカスミが大声を上げるよりも早く、店の壁が吹き飛んだ。
もうもうと上がる土煙の中、ラゴールの怒号とは名ばかりの悲鳴が上がる。先日漸く直ったばかりの壁だ。彼の嘆きも最もなことであろう。
「ったく、何だってんだかね…」
「ちょ、ちょっと、どさくさに紛れて、あんた何処触ってんだよ!」
尻を弄られるんい気づいて、カスミは強くクライブの手の甲を叩いた。
「いいだろ、別に。減るもんでもねぇし」
「あんたに触られたら減る……って、うわあっ」
横抱きに抱かれたままの状態で、クライブの身体ごとカスミは横っ飛びに飛んだ。間髪おかずに鉄の球が、2人が飛び退いた床の上にめり込んだ。嫌な音を立てながら、床が崩れ落ちる。
「君、一体、どんな悪いことしたの……」
流石に呆れているのか、クライブが眉間に皺を寄せながら、カスミに問うてきた。
「アタシは別に…っ」
彼女が答えるよりも早くに、再び鉄球が2人の頭上目がけて振り下ろされるのに、今度は2人分かれて飛び除ける。
「まあ、確かに、君といれば、退屈はしないで済みそうだな…っ」
「……っ!?」
カスミがクライブへ視線を向けるのと同時に、今度は高速で光の球が飛んできた。空中で弾けるのと同時に、火花が周囲を焦がす。
当然店の中どころか、村の中全体が騒然となり、我先にと逃げる人々で周囲が埋めつくされる。が、彼らを逃がすまいかとするかのように、急に表れた怪異な生物に村人たちの悲鳴が上がった。
「エルティナ……」
「お久しぶりですね、カスミさん」
薄い白の衣装を纏った少女の出現に、カスミは言葉を失ったかのような驚きを表した。