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連載小説「六連星(むつらぼし)」 1話~5話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第1話 
「深夜の蕎麦屋」

群馬県桐生市の歓楽街、仲町のはずれに、
まもなく開店二〇周年を迎えるという、古びた蕎麦屋がある。
「六連星(むつらぼし)」は、その店名だ。

 営業時間が変わっている。店が開くのが早くても午後の八時から。
ときには、午後一〇時ごろになってから開店することもある。
店主の松浦俊彦は、今年四五歳になった。
もともとは、ホテルや旅館の厨房を転々としてきた和食専門の板前だ。
若い時に一度だけ所帯を持ったが、子供も出来なかったこともあり、
一年と持たず、以降は気ままなひとり暮らしが続いている。


 俊彦が夜八時過ぎに、アパートから歩いて蕎麦屋へ出勤中、
路上で気になる情景と遭遇をする。
有りえない光景に、俊彦が半信半疑で立ち止まる。
若い女が酔っ払いをみつけては、何やら話しかけている様子が
どうにも秘密めいていて、気にかかった。


 (街角で、売春の客引きか?・・・ありえねぇだろう、いま時期に)


 気にはなったものの、開店時間をすでに過ぎている。
そのまま通り過ぎようとしたその瞬間、前方から歩いてくる地回りの姿を、
俊彦が見つけ出す。
地回りたちもどうやら、この女の様子に気がついたようだ。
まずいと直感した次の瞬間、俊彦はもう女の腕をむんずと捕まえていた。


 「こらこらお前、俺んちはこっちだ。
 すいませんねぇ。俺の娘が酔っ払っちまって、ご迷惑をおかけしました。
 怪しいもんじやござんせん。おいらはそこの蕎麦屋です。
 ほらほら、もういい加減でよさねえか。お前も。
 ご近所さんが、大迷惑だ」


 突然のことにびっくりして、女の目が俊彦の顔を睨む。
そんなことには一切かまわず女の腕をつかんだまま俊彦が、店に向かって
強引に歩き始める。
観念したのか、女も黙っておとなしく後を着いて来る。
地回りの筆頭株で若頭の岡本が、「おいっ」と怖い顔をして、
ずんと、道の中央に立ちふさがる。


 「おう。なんだ。
 誰かと思ったら蕎麦屋のトシじゃねぇか。
 しばらくだなぁ、元気にしてたか。
 久しぶりに桐生に戻ってきたが、此処も相変らず、不景気そのものだなぁ」


 「そう言えば、すっかりのご御沙汰だな。
 え・・・・ということは、何処かに雲隠れをしていたという
 意味になるのかな?」

 「馬鹿野郎。別にムショに世話になっていたわけじゃねぇ。
 福島だ、福島。東北の福島に出張していたんだ。
 被災地の福島で新しい商売だ。
 ・・・・何かと忙しくってなぁ、むこうで。
 復興支援というやつで、俺たちも貧乏暇なしのあり様だ。
 んん、よく見たら、そっちは若くてとびきりのいい女じゃねえか。
 このあたりじゃちょっと見かけねえ顔だが、磨けば光りそうな、
 なかなかの上玉だ。
 お嬢ちゃん。オジサンとチョイと遊んでくれるかい」


 あわてた女が俊彦の背中へ回り込み、顔を隠して身体を小さく縮めてしまう。
岡本が両肩をすぼめてから、爪楊枝(つまようじ)をペッと地面に吐き捨てる。
帽子を阿弥陀にずらしてから、長いため息をつきはじめる。

 「やれやれ。昔はずいぶんと若い子にもてたが、今はすっかりこのざまだ。
 おいトシ。、帰りに寄るから、上手い蕎麦を食わせてくれ。
 東北の食いもんもそれなりに、上手い物もあるが、
 味付けがしょっぱすぎて、どうにも駄目で、俺の口には馴染まねぇ。
 やっぱり俺には、トシの蕎麦が一番だ。
 そう言う訳だ。そこの背中に隠れているお嬢ちゃん。
 こいつの蕎麦はたっぷり食うが、お嬢ちゃんを食ったりはしないから
 安心をしろ。
 悪かったなぁ、驚ろかせたりしてよ」