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結局逃走しなかった兄妹、タイトル考え直し中

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沙耶がよく泣きながら電話をしてくるから知っていたが、やはり親が狂ってしまうのは心苦しいものがある、もうこれで俺ら兄妹には頼れる人がお互いしかいないのだ、きっと…

「詳しく聞いていいか?どう様子がおかしんだ?」
「んー、一番目立つのはお父さんが生きてるみたいに話すことかな、お兄ちゃん、間に受けちゃダメだよ」
「話す機会があるとは思えないが…そうか…どうしてそんな…」
「お父さんは死んでるよ、お母さんとお葬式だってした、間違いない」
「わかってるよ、ごめんな、葬式とか全部沙耶に任せてしまって」
「もういいよ、済んだことだし
あ、そろそろ11時だし家に戻っておくね、お兄ちゃんお金ないでしょ、2万渡しとくね、パチンコ行っても一万以上使わないでよね、いくらでも稼げるけどさぁ…」
「わかったわかった、わかってるからそういう話やめてくれ、マジで」
「ずっとパチンコに行ってて私からの連絡に気づかないとか本当意味ないからやめてね!わかってるならいいけどさぁ…」
俺に金やらを恵む時にやたら話が長くなるのは知ってる、正直めんどうくさい
「どうせうるさいとか思ってるんでしょ!もう!じゃあまた後でね!」
さて、パチンコでも行くかぁ

午後2時
ボロ負けだった、きっとあの施設は俺のような自分は賢いと思ってるような人間が失敗して泣きを見る施設なんだろう、一時間弱で一万を溶かした俺は近所の公園を散歩していた、一年経つだけで家の外装や自販機の種類やら毎日居たら逆に気づかなさそうな細かい変化があって、案外楽しいものだ、久しぶりに帰ってきた地元を俺はのんびりと楽しんでいた
呑気に油断していた
「あ、一ノ瀬君じゃない?こっち遊びに来たの?」
懐かしいと表するにはそんなに時間も経っていない声、ぼぅっとしていた俺は約一年振りに元同級生の岸良に偶然、であってしまった

「あ、おぉ…ひさし…ぶり…」
なんてタイミングの悪い奴、よりによって今日出会ってしまうなんて、俺は今、旧友との挨拶をしてる場合はなく、むしろ避ければならないところなのに…
「一ノ瀬くん、帰って来てたんだね、大学はどう?あ、というか今時間大丈夫だった?」
「あ…うん…いや、あぁ…大丈夫だよ」
「良かったー、ちょっとジュース買ってくるからまってて!」

いい機会だったのかもしれない、警察から逃亡する身になれば、もう旧友と話すこともないだろうから、偶然ここで会わなければ二度と会えることなんてなかったんだろう、そう考えると案外、俺も運が良かったのかもしれないな

そして岸良の話を聞いた、ほとんど一方的な愚痴のようなものだったけども、昔の友人の前へ進もうとする奮闘記には何だか不思議な感動があった、それとは対照的に後退して、荒廃していく俺とは大違いだ、あぁ…幸せになってくれ、俺と関わりのない場所で

そして、岸良の携帯が鳴った
岸良が着いてきて、と有無を言わせぬ口調と共に人が変わったように俺の腕を強く掴む
嫌な予感がした、振りほどくべきだった、少し歩き、道を曲がったすぐそこの駐車場に、あの人が待ち受けていた
俺の母が、俺を待っていた

「乗りなさい」
車で来た母の冷たい口調と震える岸良の小さな謝罪の声、俺は岸良を睨みつけ、何も言わず車に乗り込んだ
裏切られたのだ、あいつは知っていた、知っていて俺を見つけて、母を呼び、時間を稼いだ、そして俺と母を引き合わせた、実に優等生らしい100点の行動だろう、表面上をみれば、何も知らないあいつなら
自分の間抜けを未練がましく

「帰って来るなら連絡ぐらいしなさい」
母親らしく俺を咎める母の口調を無視して俺は窓の外を見る、暗い夕暮れ、雨は降りそうに無いが曇りが深く気が滅入る、携帯を確認すると何件も沙耶からの着信があった、沙耶はきちんとやってくれていた、俺が間抜けなツラをしてあいつの話を聞いていなければ…
あの人も会話を諦めたのか無言で車を走らせる、車の中で流れてるCDはずっと昔から変わってないみたいだ、変わらない道並み、変わらない車内、変わってしまったのは何なのだろう、ぼんやりと感傷に浸っているうちに家へと着く
車を止め、鍵を開け、家へと入る、何百回と繰り返したこの行動も、もう最後になるのだろう
おかえりなさい、と沙耶の声とそれに答えるあの人の声、まるで何も問題もない、普通の家族のようなやりとり、おかしいのは俺だけなのか? そんな違和感に襲われながらも、俺は居間へと入った

まずは沙耶と軽く打ち合わせをしたかった、沙耶へ目配せを送り、トイレに行くと言い残して居間を出る、思惑通り沙耶が俺の後についてくる

電話に出なかったことを責める沙耶をいさめ、2階へと行かせる、携帯のメール機能でこれからの予定を送った

〈2階に上がった後、窓から外へ出て下へと降りて、車の鍵をとってきてくれ
後、逃走に使える物もあれば用意をしておいて
俺はあの人と話し、隙をみて殺す、死体を車に積み逃げる
俺と母が会ってることを知っている奴がいる、幼馴染で名前は岸良、口封じは出来ない、探し出して殺さなければいけない〉

沙耶を2階へ送り出し、トイレには寄らずに戻った、あの人と居間で二人きりになった
「xxx、あんたはなんで1年間も何の連絡もせずに何をしてたの、いつから沙耶はあんたと会ってるの
お父さんも心配してるんだからね」
反応せざるをえない、あの人の言葉

「お父さんは、死んだだろ」
「はぁ!?あんた何いってんの!?」
急に激昂して怒鳴りつける、やはり思い出さないのだろう、目の前で見ていたはずなのに
「覚えてるだろ、目の前で見てたんだから」
少し区切り、俺の罪を思い出させる
「俺が薬を隠して、階段を降りようとしてる父さんを突き落とした、それを、母さんは見てたはずだ」
凍るような目で、息子ではなく犯罪者を見る目で、俺を見ていた

父が死んだことを忘れているのは幸運かもしれない、息子が殺したという現実を受け入れられないのなら当然なのかもしれないのだが、警察には言ってないらしい
ならば、ここでこの人を殺して、そして岸良を殺せばいい、それでまだ俺は沙耶を守って生きていける

「母さん、知ってたかよ、沙耶が父さんからDVを受けて、自殺寸前まで追い詰められてたのとかさ」
狼狽しているあの人に向けて、俺は話しかけながら時間を稼ぐ、周りに凶器がないか、不幸なことに父を殺すために用意した道具は2階にしか隠していない
「沙耶がいっそ死にたいって言ったからさ、代わりに俺が殺してやったんだよ」
「ふざけるな!」
手元の皿を俺へと投げてくる、俺へと当てる気は無かったのか、横へとそれてガシャンと大袈裟な音を立てて割れた

「あんた、本当何を言ってるの?」
初めてみるギラつくような目で俺を睨む、身内の人間の殺意とはこうも不気味に感じるのか、肌が粟立つ
「事実を言ってるだけだよ、こんど沙耶に無理言って身体を見せてもらうといい、根性焼きの跡もあるらしいぜ、俺は見せてもらえなかったけどな」
「沙耶!ちょっと!」
2階に向かって叫ぶ、沙耶は今頃外で車を準備してくれているはずだ