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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 振り返ると長身の生徒が立っていた。長髪でメガネなハンサム。一見してインテリ。人を追及する、見下ろしたような視線が印象的だ。咳払いで現れるとは古風な男だ。
 あだ名を付けるなら「会長」。
 生徒会長のような男だ。
「校内で不穏な会話はやめてくれないか、松岡君」
 三郎とはまた違った冷たい声。嫌いになれるタイプだ。
「別に公序良俗に反する会話はしてませんよ、会長」
 瀬里奈は負けず劣らず冷たい声で無感情に告げた。
 むう…… 本当に生徒会長だったのか。自らの洞察力に感心。
「君は特別転校生の風見君だね。生徒会長の葉山悟だ」
 会長は俺に視線を移し握手を求めてきた。断る理由も無いので握り返す。今日の俺はフレンドリーな好青年だ。
 いやいつもか。
 すると会長は驚いたように言った。
「君の噂は聞いている。握手するんだな」
 噂とは街の治安を守るため悪党を退治している正義の味方というものであろう。しかし何故握手しないと? 利き腕を他人に預けないってやつか? どこの殺し屋さんなんだ、俺は。
 外観、物腰、発想全てが一時代昔の男だ。この学校で生徒会長に立候補するようなやつはこんな物かな。
 俺の自己紹介もろくに聞かず、やつは自分の用件を切り出した。
「何をしにこの学校へ。突然勉学に目覚めたとは思えない」
 君のような人間が、と腹の中で付け足しているのがわかった。本当にむかつく男だ。
「通信で高校の勉強はやってました。兄貴の勧めで急にね」
 目的を告げる必要は無い。大体俺もまだ目的がはっきりしていないんだ。
「突然の無理のありすぎる転入。転入早々不良の巣窟へ侵入。親玉と接触。真面目に勉強しにきた人間の行動とはとても」
 不良の親玉か。瀬里奈を蔑んでいるようだ。さすがにむかついてきた。
 俺は少し猫を被るのをやめた。どうやら俺という人間を多少は知っているようだ。
「何故あなたがそんな事を聞く。関係があるように思えないが?」
 凄みを少し含んだ俺の言葉に奴は怯まず冷笑した。
「ただの悪党だ…… 君の自己紹介の時の口癖だそうだね」
 本当によく調べてやがる。
「その言葉が本当なら学校としては問題だ。生徒会長が学校の治安を心配するのはおかしくも無いだろう。この街の治安を便利屋が守ろうとするよりは」
 論理的なだけにいちいち癇に障る。口で勝てるとは思えなかった。話を切り上げるのがよかろう。
「会長のお気に召さないのなら大人しくしてますよ。どの道1ヶ月間の体験入学です。1学期が終わればいなくなる身だ」
 会長は人差し指でメガネの真ん中を押して頷いた。
「そうしてくれ。君が来て半日ですでに揉め事があったと通報が入っている。暴力的な事が二度と起きないように頼むよ、では」
 会長は見事なターンを決めこの場を離れた。
 すまんな会長、もっと派手な揉め事をさっき起こしちゃってるんだ。ま、いいか。
「嫌味な奴」
 瀬里奈が吐き捨てた。
「10年ぶりに気があったな。俺もそう思う」
 瀬里奈は、ふんと顔を背けた。
 今の会長の態度…… いくら真面目な奴だとしても……
「とにかく!」
 突然瀬里奈は大きな声を出した。大人しいやつだったから大声なんて初めて聞いたかもしれん。なかなか色っぽくていい声だ。
「私に危害を加えようとしている奴なんかいない。親父の奴が何を言ったかは知らないけど私に護衛なんて必要ない。会長もああ言ってるんだから、便利屋に帰りな!」
 むきになって俺を遠ざけようとしている。なんとなく…… わかってきた。
「問題ないと言われて、はいそうですかと帰るわけにはいかない。もうしばらくここにいさせてもらうぜ。お前がどう思っていようが知った事じゃない。これは俺が勝手にやる事だ」
 そうだ、仕事以前にこれは松岡の頼みだ。
「俺はお前を守る」
 一瞬だけ瞳を大きくして、瀬里奈は背を向けた。
 勝手にしろ…… と呟いた。
 それはそれとして…… ふむ、後ろから見るとなかなかのプロポーション。女にしては背が高く俺よりちょっと低いくらいか。それゆえ見栄えがよく特に腰からヒップへのラインが……
 おっと、お尻眺めている場合ではない。
「ちょっと待て、まだ用事がある」
「なによ」
 迷惑そうに振り返った。俺が懐に手を入れると一瞬怯えの表情を見せた。俺がどんな家のどんな人間か知っている証拠だ。
 が、奴の予想に反して俺が取り出したのは携帯電話だった。
「携帯の番号とアドレス交換を」
 瀬里奈の顔が真っ赤になった。む…… かわいいじゃないか。
「なんであんたなんかに番号教えなきゃなんないの!」
 俺は至って冷静に返す。
「連絡取るのに必要だろ。お前に用事が無くても俺にはありそうだ」
「知るか、誰が教えるか」
 瀬里奈は力いっぱい横を向いた。長い髪が一歩遅れて続く。
 俺はフムとわざとらしく思考して見せてから言った。
「教えないなら俺は独自に調べる。その場合俺はお前の番号を知っていてお前は俺の番号を知らない事になる。それでもいいか」
 こんちくしょうとうめいて瀬里奈は携帯を取り出した。
「本当に悪党ね……」
「嘘つくとこじゃないし」
 俺は笑っていた。楽しいなぁ。ジェニーと違って完全に俺のペースで話が出来る。じつにからかいやすい。その辺は変わってない。
 何の変哲も無いガラケーが現れた。女子高生なんだから可愛いストラップくらい付けろよ……
 ジュンのはクマさんがついてたな……
 データ転送の準備をしながら話しかける。
「お前の呼び方な…… 昔と同じで瀬里奈でいいか」
「……」
「松岡だと親父さんと被るし、今更さん付けもなんだろ」
 瀬里奈は無言の後、携帯から目を外さず言った。
「偉そうに、何で親父を呼び捨てなんだ」
「そう呼べと親父さんに言われたんだ。敬語も止せって。俺だって年上にタメグチなんてたたきたくないよ」
 瀬里奈は答えずに携帯に没頭だ。あまり使い慣れてないと見える。ちょっと覗き込んで「これだよ」と指差してやったら一歩飛びのいた。
 黒髪のスケバンさんは、ちらっと俺を睨んでから何度目かのフンッを言って手を止めた。
 やっと準備できたな。
「何とでも呼べばいいさ」
 もたついたのをごまかすようにわざわざ少し大きな声を出して胸を張った。
 そして一言付け加えた。
「トヨタセリカ以外なら」
 さすがに俺は苦笑した。
「それはやめる。もうセリカ無いしな。嫌だったんなら謝るよ」
 バカ…… と言って瀬里奈は携帯をかざした。ピピッという動作音と共にプロフィールが俺の携帯に送られてきた。
 そういえばこいつは俺の事をなんと呼んでいただろう。たしか……
 と、そこに。
「風見くーん、ここにいたんだ、あ」
 米沢さんの登場である。俺を探していたのか?
 彼女の目にはどう映っただろう。
 美人女子高生とメルアド交換している俺の姿は。
 どうでもいいはずなんだけど、なんかややこしくなりそうな予感が背筋を駆け巡っていた。

 昼休みも終わりなので俺達は教室に戻った。瀬里奈は口も聞かず教室の隅に戻った。どっかに消えちまうかと思ったが。
 午後の授業は漢文で退屈の一言。子、いわく何たらかんたら……