小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

便利屋BIG-GUN2 ピース学園

INDEX|34ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

 松岡の顔面は真っ青だった。禁断症状のためなのだろうか。
 それとも恐怖…… なのか。
 俺は震える右手を無理やり懐に突っ込んだ。
 鋼鉄の冷たさと細かいダイヤ模様に刻まれた木製グリップの感触が手の平に伝わる。何とか握り締め引き出す。
 細身の銃身を持つ世界一美しい自動拳銃ルガーP08。
 上部の丸いトグルに左手の指をかけ力任せに引き上げる。尺取虫状に上部は折れ曲がる。中に薬室と世界で最も流通している弾丸9mmパラベラムが見えた。
 指を離すとシャキンと滑らかな動きでトグルは元の位置に戻り9mmパラベラムを薬室に送り込んだ。
 俺の震えはぴたりと止まった。
 ルガーに弾丸を装てんする事で俺の安心毛布は完成する。
 恐怖は全て消え失せ俺はただの殺し屋になっていた。
「言い残す事はあるか」
 厳しい教官だった松岡。
「娘は君と会って楽しそうだったか?」
 しかし訓練を成功させると顔をほころばせ常に褒めてくれた。
「再会してから笑った顔は見ていないが」
 俺を過小評価する者がいればいつも批判しかえしてくれた。
「君と引き離したあと、あの子は母も失い見知らぬ学校に押し込まれ孤独だったはずだ。虚勢を張って生きるしかなかったのだろう。遠くから見ていた事もあったがいつも辛そうだった」
 たとえ親父が相手でも盾になってくれた。
「その状況から助けてくれる者…… それはもう君しかいなかったのだろう。あの子は時々君の店の側に来て店を見つめていたよ…… だから親として最後に君に助けてくれと頼んだ…… 娘の願いを一つ位叶えてやりたかった」
 いつも人の事ばかり考えて自分は損をする…… そんな男だった。
 俺が松岡にかける最後の言葉は…… 考えたがこんな物しか思いつかなかった。
「あんたには感謝している」
 松岡はまた笑った。瞳に涙が見えた。
「よせ、私は立派な人間じゃない。私はただの悪党だ」
 松岡は俺の目を見て頷いた。
 俺はルガーを構えた。
 引き金を引く。
 その瞬間、松岡は変貌した。
 突如邪悪な表情になり俺の視界から消えた。左下へ飛んだ。感覚で解る。そちらに銃口を向ける。
 ドンっと左胸に振動がきた。
 飛びながら松岡は銃を抜き打ちしていた。
 松岡の銃はS&W M13。3インチのブルバレルリボルバー。
 強力な357マグナム銃だ。
 松岡の勝ち誇った醜悪な笑み。
 だがそれもすぐ凍りついた。
 俺の放ったルガーの弾丸で。
 トグルジョイントが作動し空薬きょうを勢いよく上に跳ね上げる。左胸に赤い点を作りながら松岡は何故…… と呻いた。
「あんたが357マグナム使いなのは知っている。防弾チョッキを少し増量してきた」
 BIG-GUN活動服とその下に着込んだケプラーのシャツで弾丸は辛うじて止まっていた。
 胸に痛みは走っていたが。
 松岡は仰向けにごろりと転がり、またさっきまでの優しい笑みに戻った。
「合格だ…… 完全に卒業だよ、Jr.」
「Jr.はやめろよ」
「私にとっては風見健は一人だけ…… 君はいつまでもJr.だよ…… 瀬里奈を…… 頼む」
 勝手な事を……
 松岡は止めを促すように頭をトントンと指差した。
 ああ、わかっているさ。
 ルガーの引き金は、思ったより重くも無かった。

「Jr.後は好きに生きればいいのさ」

 2週間後、ピース学園球技大会は開催された。
 思ったより大げさに開催された。
「麻薬による汚職、誤認逮捕、放火殺人など数々の苦難に屈せず、ここ私立ピース学園は本日大球技大会を開催し内外にその活力を示します!」
 FMシー、アナウンサー三ツ沢さんが中継にやってきていた。
 どうせならニュースで流してもらって派手にやろうと思い三郎を通じて取材に来てもらったのだが、やけに乗り気で今日一日張り付いて逐一経過を放送するらしい。
 高校の球技大会の内容何ざ誰が知りたがるんだろう。
 大体麻薬の拡販にFMシーも利用されていたし社員も噛んでいたはずだが、その事はスルーらしい。
 生徒が警察内部で口封じされ一人死亡、放火殺人で4人死亡。あまつさえ教師が共犯者として逮捕。普通なら休校だが、そこを乗り越え学校生活を復活させる。マスコミも世間も好みそうなネタという事か。ま、好きにやってよ。
「ただいまから球技大会「白井祭」を開催します!」
 生徒会長が高らかに宣言した。
 そもそもこの大会は死んだ白井健吾が発案したそうだ。その慰霊と敬意をこめて「白井祭」と名づけたそうだ。
 嘘でー。
 あまりにも白々しい嘘だが庶民好みではある。あっさり受け入れられて採用されてしまった。そういえばここはキリストのお膝元だった。先生方もこういう話はお好きなんでしょう。
 開会式のあと試合開始まで少し時間があったので俺は主賓としてお見えの名誉理事に挨拶に行った。
「こんにちは、鍵さん」
 学校関係者テントの一番前に背が高くがっちりとした体格の初老の人が座っていた。その傍らには黒い背広の青年が控えている。
 鍵さんは振り返ると立ち上がって俺に握手してくれた。東洋人にしては堀が深くハンサムだ。ややいかつい顔つきだが今はこの上なく優しい笑顔を湛えている。
「やぁ学校生活楽しんでいるようだね」
「残念ながら今日で終わりですが」
 1学期終了まで居座れるのだがいる理由がもう無い。その事はクラスの皆にも打ち明けてある。
 鍵さんはこの街に多くの土地と企業を持つ経済界の顔だ。市長以上の権限を持っているといえるだろう。ふとした縁で知り合いそれ以来何かと世話になっている。
 鍵さんは「まぁこっちへ」とテントから離れた。横にいたボディーガード黒沢さんも従う。
「今回もお世話になりました。俺の入学、口聞いてくれたんでしょ」
 鍵さんは「いやなに」と笑ってくれた。
「クナイト君とも以前からの付き合いだし気にしなくていい。こちらとしても礼を言っておくよ。私の学校から悪党を排除してくれたんだからね」
 今度は俺が「いえ」と言う方だった。
「4人も死なせちゃいました」
 その事に触れた途端、鍵さんの顔が険しくなった。凄みのある怒りの表情。どんなやくざでも尻込みしそうだ。
「君の責任では無いさ。だが奴らには責任を取らせる。私の子供たちに手を出しおって。私の目の黒いうちは奴らにこの街で商売はさせん」
 頼もしい言葉だ。この人が本気になればヤクザとておいそれと街に出入りは出来ないだろう。
 鍵さんの顔がふっと笑顔に戻った。
「ところで、どうだね学園生活は。もててるそうじゃないか」
 さすが情報網は凄い。
「ぼちぼちです」
 とごまかす。
「君がもたもたしているなら私が誘うぞ。最近社交ダンスにはまっていてね。彼女なら踊れるだろう」
 その彼女ってどれの事だろう。金髪のお嬢様だろうな、やっぱり。
 そこへバスケチームがやってきた。そろそろ時間か。
 俺は挨拶し失礼した。
 体育館に向かう途中、駐車場で帰り支度の警察署長に会った。
 警察は今日は悪者だ。何しろ白井を犯罪者扱いにしムザムザ殺している。普通なら恥ずかしくて顔なんか出せないが、この人は別のようだ。
 開会式で鍵さんのあとに登場し深々と頭を下げ詫びた。