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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 到着したガラクタ置き場は古びた木造の倉庫だった。2階建て、通常の体育館の半分くらいの大きさ。倉庫としてはかなり大きい部類だろう。
「たのもー」
 一応相手はレディーなのでオレンジの錆止めが剥がれかけた鉄の扉を叩いてみる。返事は無い。
「入るぜー」
 もう一声かけて扉を開ける。相手は高校生だからいきなり撃ってきたりはしないだろう。それでも慎重に辺りを確認しながら中に入った。ムッとした熱気が立ち込めている。電気はついていないが窓からの光で中はうっすらとしている。俺は夜目がきくのでこれで十分に見える。倉庫らしく柱が無いだだっ広い空間に何が入っているのかわからない巨大な木箱、昔の体育祭で使われたと思われる機材、段ボール箱の山そういったものが乱雑に置かれ中は迷路を思わせた。迷路といえば本物の病院改造してお化け屋敷兼迷路にした遊園地があったが…… なんであんなもの作るかねぇ。わざわざ金はらって怖い思いしなくてもいいじゃないか。
 1階に人の気配は無い。2階に上がってみる。2階は倉庫空間は1階の半分ほどしかなく残りは部屋になっていた。4つのドアが壁に見える。かすかに人の声が聞こえた。一番奥の部屋か。妙なトラップは無い。そこまで気にする必要は無いか、ここは私立高校の中だ。
「こんちはー」
 俺はノックして返事を待たずに中に入った。
中には4人の高校生がいた。手前に野郎が二人。奥に女が二人。いた、松岡瀬里奈。
一目でわかった。
 予想よりかなり美人になっていた。
 一同は驚きと共に振り返り、一瞬遅れて殺気立った。
「なんだてめぇは」
 また三下三大台詞をはき、男達が立ち上がった。流行ってるのだろうか。
「やっちまえ!」
後ろにいた女が三大台詞パート2をはいた。いきなり「やっちまえ」とは好戦的な奴だ。
呼応して左側にいた男が俺の胸倉をつかみに来た。俺はその指をつかみ、ちょいとばかり力を入れて捻りあげた。野郎は悲鳴を上げる。
「この野郎!」
 右にいた男は殴りかかってきた。俺は手を離し右へ踏み込みつつエルボーを腹に打ち込む。カウンターで綺麗に決まった。ぐえっと呻いて男は悶絶した。左にいた男はよせばいいのに反撃してきた。何の考えもなく俺につかみかかる。くるりと体を回転させつつ裏拳を奴のこめかみに叩き込む。男は白目をむいて崩れ落ちた。
 残された女達はさすがに向かってこなかった。右の女は強がって鬼の形相をしているが明らかに怯えていた。右手は隣の女、松岡瀬里奈の袖をぎゅっと握っている。俺が唯一の出入り口の前に立っているこの状況では三下三大台詞パート3「おぼえてやがれ!」を叫んで逃亡する事もできない。
 松岡瀬里奈は肝が据わっているようだ。座っている位置、さっきのチンピラの態度からしてグループのボスはこいつか。
 薄暗い室内でもわかるほど艶のある黒く長い髪。真逆に透き通るような白い肌。この二つは俺の記憶と変わってはいない。変わったのは瞳。切れ長の瞳はあのころと違って氷のように冷たい。表情はどうにもならないほど冷めていた。整った顔立ちなだけにその冷たさにはぞっとさせられた。
「なんなのあんた」
 けだるそうに松岡瀬里奈は口を開いた。やや低い落ち着いた声だ。俺は苦笑して答えた。
「フィアンセを忘れるとは、つれないぜトヨタセリカ」
 この台詞に一瞬だけその表情が俺の知っている瀬里奈に戻った。頬がすこし赤くなっている。
「あんた…… まさか、風見健?!」
 俺はなるべく紳士的に笑った。
「今は便利屋の社長で、ただの悪党だ」
ざっと…… 10年ぶりの再会だった。

「Jr.やっかい事はいつも突然やってくる。身構えている必要は無い。そういうものだと解っていれば対処できる」

 時間は少し戻る。
 依頼の電話が来たのは仕事を終え、たまったビデオを一気に消化しているときだった。武道に打ち込む少女達の友情物語(ちと変わった武道で武器が戦車なんだが)に不覚にもウルッとしていたら電話が鳴った。
 わが社便利屋BIG-GUNは24時間営業では無いが、さすがに電話くらい出ずばなるまい。なにしろ社員全員が社屋に寝泊りしているのだから。
「Jr.。風見健に娘を、松岡瀬里奈を助けてくれと伝えてくれ」
 電話を取るなり中年男の切羽詰った声が響いた。声にも瀬里奈という名にも覚えがあった。
「頼む」
 電話の声は念を押した。
「松岡か? 俺だ、健だ」
 俺の声が聞こえたのかどうか。電話は切られた。
 普通の便利屋さんにはこういう依頼の電話はかかってこないだろう。しかしまぁ「うち」は少し規格外のお店だからたまにはある。得意分野は揉め事解決だ。
 さて、どうしたものか。
 俺はとりあえず二人の仲間を起こすことにした。
 松岡とは親父の片腕で俺の教育係だった男だ。体力作りから格闘技、射撃、大概のことは松岡から習ったといっていい。
 娘の瀬里奈は俺と同い年で、まぁ幼馴染だ。色白で黒髪が綺麗な可愛い子だった。恥ずかしがり屋だったが将来お嫁さんになるとも言ってくれた。しかし俺はというと「トヨタセリカ」と呼んでからかっていた。
 まつおかせりな、トヨタセリカ。
 むう…… 今考えると全然似てないな。
「彼女自慢はいいから」
 極めてめんどくさそうにハンサムな男は俺の言葉を遮った。
「話を進めろ」
 相棒、北下三郎である。あらゆることを人並み以上にこなす天才肌の男で、非常に役に立つ頼りになる男だ。が、気に入らんのは人を見下ろした話し方と俺より少しばかり女受けするルックスである。今更喧嘩しても始まらないので俺は入れたてのコーヒーを一口飲んで話を続けた。
「俺が家を出ちまったせいで松岡は教育係として責任を感じていたそうだ。後ろ指差すやつもいただろう。奴の娘が何らかの危険にさらされて、かつ俺に助けを求めるとなるとその辺にしか理由は思いつかない」
「お前の親父さんは松岡さんをどう思っていたんだ。やはり責めていたのか?」
 もう一人の仲間ジムが口を開いた。身長190もある恵まれた体格のこの温和な青年は体に似合わず機械いじりを得意とするエンジニア系の人間だ。特に拳銃のカスタマイズに秀で俺達の銃は全てジムの手が加わっている。またジムは俺達より年上で思慮深く相談役には最適の人間だ。
「部下はともかく、親父と兄貴は松岡を信頼していると思う。長年の付き合いだし、変わる人材はいない」
 ジムは少し考えた。精悍な表情だ。女にもてそうなんだがあまり出歩かないので浮いた話はついぞ聞かない。もったいない。
「なら何故松岡さんは親父さんでなくお前を頼ったんだろう。悪いがどう考えたって頼りになるのは親父さんの方だぜ」
 三郎に言われたらむかついたかもしれんがジムが言うと説得力がある。
「親父さんの組織から狙われている…… と考えるのが妥当か」
 三郎がつぶやいた。確かにそうだが親父が瀬里奈に危害を加えるだろうか。俺の目からは実の娘のように可愛がっていたように見えたが。いや、あの親父に人並みの情愛を期待するのは無理か。なにしろ10年も前の話だ。俺も幼児だったしな。今の判断力は無い。