便利屋BIG-GUN2 ピース学園
「Jr.今日から私は君の教官だ」
「新しい教育方法として通信教育生を普通科に短期通わせる事を試験的に行う事となりました。彼がその第1号で今日から君達と一緒に勉強する新しい仲間です」
やや頭のてっぺんが寂しくなった中年教師の紹介を経て俺は一歩前に出て自己紹介をした。これからクラスメートとなる生徒たちは歓迎というより驚きをもって迎えてくれた。俺の名を知っていたせいだろうか。いや、無理のありすぎる転入理由のほうだろうな。時期も時期だ、あと一月で夏休みでもある。まぁ俺にとってはとりあえず関係ない。質問される前に押し切るとしよう。
「1ヶ月の短い間ですが、よろしくお願いします」
俺にもこんな丁寧な挨拶が出来るのかと自分でも驚きつつ二つあった空席の一つを指定され、そこに腰を落ち着けた。
さりげなくクラス全員の顔を見渡したが、いない。
とするともう一つある空席がそうか。
席に着くとすぐに隣の女の子が話しかけてきた。ふふふ、もって生まれたスター性か。
「あなたスポーツ得意そうよね? 何かやってる?」
予想よりもフレンドリーすぎる、いやタメグチな口調で彼女は切り出してきた。いくら同級生とはいえ初対面の異性にはもう少し他所行きな言葉を使うんではないか?
「スポーツは何もやってないけど。運動神経は自信あるよ」
俺が素直に返事したのは社交辞令か揉め事を起こしたくなかったせいか、はたまた相手が女の子だったからか。
俺の回答に彼女は満足そうに微笑むと「じゃまた」と一方的に会話を中断した。
ショートカットの栗色の髪、赤い弦の縁なしメガネの奥に意外と大きく丸い瞳が輝いていた。ルックスとしては中の上くらいか。つまりは十分ヒットゾーン。一ヶ月隣に座る相手としては申し分ないが、なにやら少しうるさそうだ。どうも俺の周りにはこういうマイペースな女の子が多い。なんでだろね。
HRが終わるとすぐ今度は俺の方から彼女に話しかけた。向こうから話されると向こうの用件を聞くだけで休み時間が無くなりそうな気がしたからだ。
授業内容や学校生活について軽く質問した後、空席について聞いてみた。
「あの後ろの席になると思ったんだけど、誰か休んでるの?」
すると彼女、たった今名前を聞いた「米沢早苗」は困ったような顔をしてお茶を濁すように答えてくれた。
「あれはいつも休みっていうか…… あんまり気にしないほうがいいよ?」
この反応で大体予想がついた。あの席の主はその手の人間か。
キリスト教学校なんて俺にはお高すぎる所かと思ったが、どこにでもいるんだな。俺と合いそうな奴ら。
アイツがそういうタイプの人間になっているとは予想外だったが、まあ人間色々だからな。
昼休み、ちょっと話があるという米沢さんを「昼飯買ってくる」と振り切り購買部へ向かった。情報を得たかったのだが、こんな時間にやつらは登校してないかな。
お母さんが丹精こめて作ってくれた弁当ではまるで足りない10代の飢えた若者たちが購買部のパン売り場に殺到していた。
とりあえず俺も列に加わりコロッケ、ハムカツなどの惣菜パンを5個ばかり購入し列を掻き分け購買部兼学食の隅に移動する。昼飯を食いながら物珍しげに学校を見学する転入生を演じつつターゲットを探す。
いた。その手の奴だ。
わかりやすく茶髪。ぶっといスラックスを非常にだらしなく着こなしている。なにが気に入らないのか、周りをじろじろと睨みまくっている目つきなど、一体いつの時代の人なの? と質問したくなっちゃうほどだった。まぁおかげでわかりやすかったけどね。
俺は奴が購買部を出て一人になるまで尾行した。まぁ大体ああいう奴らは飯を食ったら一人になりたがるものだ。果たして奴は一人校舎の裏に消えていった。助かるなぁ。
奴を追っていくと人気のない校舎の隅が煙たくなっていた。
「やあ、ちょっといい?」
背後から明るく声をかけると奴はびくついて手にしていたタバコを投げ捨てた。バカモノ火事になったらどうする。消防団員としては看過できぬ。
「なんだてめぇは!」
三下三大台詞のひとつをわめき、奴は俺を威嚇した。
「僕、今日転校してきたばかりなんだ。知り合いが一人この学校に通ってるはずなんだけど会えなくてね。君なら知っていそうな気がしたんで声をかけてみた」
場違いに明るい好青年の登場に奴は調子を崩しながらも息巻いてみせる。
「ふざけんな、邪魔だ。とっとと行きな」
「そう言わずに教えてよ、松岡 瀬里奈というんだけど」
名を聞いて奴の顔色が変わった。
「松岡さんに何の用だ」
さんづけか。あいつ1年生のはずだが。俺と同級だからな。
俺は少々めんどくさくなっていた。
「知ってるんなら教えろ。お前らのたまり場はどこだ」
急に態度を変えられたんで奴はわめきながら殴りかかってきた。力任せの足腰が入ってないパンチ。
軽く左にかわして手首をつかみ背中までクイと捻り上げてやった。
奴はギャッとうめいた後、なおわめき続けやがった。
「ふざけんな放せ、ぶっ殺すぞ!」
「お前この体勢でよくそんな口をきけるな。なんか勘違いしてないか?」
手首を肩まで一瞬引き上げる。奴の叫びのトーンが一段上がった。
「俺は教師でも風紀委員でもない。お前らがタバコふかしてようがシンナー吸ってようが知ったこっちゃない。松岡瀬里奈に会いたいだけだ。素直に話せばお前がしゃべったって事は誰にも言わないでやる」
最後の一言が聞いたようでこのチンピラは口を割った。スムーズな滑り出しだ。一ヶ月も必要なかったかもしれない。
去り際俺は奴に500円玉をトスしてやった。
「俺に会った事は誰にも話すな。そいつは情報料だ。もうちょっとましなタバコ吸うんだな」
チンピラの表情なんて振り返りもしなかった。
私立ピース学園。この街の南東、ほぼ市の境にある中高一貫教育の学校だ。キリスト教の教えをベースとしたお嬢様学校だったが最近男女共学になった。野郎の制服はブルーのブレザー。女子は緑色のブレザーで俺に言わせると何の変哲もないスタイル。まぁ今は夏服だからYシャツにブラウスだ。
学力は上下の開きが大きい。要するに一所懸命努力しているやつもいればそうでないやつも仰山いるということだ。こういう場合目立つのは悪い方。それで市内ではピースではなく「ピンフ」と呼ばれ小馬鹿にされることが多い。ピンフの意味がわからない? 麻雀の一番安い手で「平和」と書くのでそれとピースをかけてだな…… まあいいか。
であるが何故か女の子には人気があり定員割れした事は無いという。現在も共学とはいえ男女比率は7対3で女が多いようだ。寮が充実しているのも特徴で全校生徒の4割が寮住まいだ。
私立らしく敷地が広いし海も近く立地条件はよい。防風林を兼ねてか木々も多くいかにもこの街っぽい雰囲気。その辺が人気の秘密なのか。
ま、とにかくここはこの街で一番有名な学校である事は間違いない。
今回のターゲットたる松岡瀬里奈は、この広い学校の北のはずれにある、あまり使わなくなったものを置いておく倉庫つまりガラクタ置き場をアジトにしているそうだ。まあありがちな場所だな。
「新しい教育方法として通信教育生を普通科に短期通わせる事を試験的に行う事となりました。彼がその第1号で今日から君達と一緒に勉強する新しい仲間です」
やや頭のてっぺんが寂しくなった中年教師の紹介を経て俺は一歩前に出て自己紹介をした。これからクラスメートとなる生徒たちは歓迎というより驚きをもって迎えてくれた。俺の名を知っていたせいだろうか。いや、無理のありすぎる転入理由のほうだろうな。時期も時期だ、あと一月で夏休みでもある。まぁ俺にとってはとりあえず関係ない。質問される前に押し切るとしよう。
「1ヶ月の短い間ですが、よろしくお願いします」
俺にもこんな丁寧な挨拶が出来るのかと自分でも驚きつつ二つあった空席の一つを指定され、そこに腰を落ち着けた。
さりげなくクラス全員の顔を見渡したが、いない。
とするともう一つある空席がそうか。
席に着くとすぐに隣の女の子が話しかけてきた。ふふふ、もって生まれたスター性か。
「あなたスポーツ得意そうよね? 何かやってる?」
予想よりもフレンドリーすぎる、いやタメグチな口調で彼女は切り出してきた。いくら同級生とはいえ初対面の異性にはもう少し他所行きな言葉を使うんではないか?
「スポーツは何もやってないけど。運動神経は自信あるよ」
俺が素直に返事したのは社交辞令か揉め事を起こしたくなかったせいか、はたまた相手が女の子だったからか。
俺の回答に彼女は満足そうに微笑むと「じゃまた」と一方的に会話を中断した。
ショートカットの栗色の髪、赤い弦の縁なしメガネの奥に意外と大きく丸い瞳が輝いていた。ルックスとしては中の上くらいか。つまりは十分ヒットゾーン。一ヶ月隣に座る相手としては申し分ないが、なにやら少しうるさそうだ。どうも俺の周りにはこういうマイペースな女の子が多い。なんでだろね。
HRが終わるとすぐ今度は俺の方から彼女に話しかけた。向こうから話されると向こうの用件を聞くだけで休み時間が無くなりそうな気がしたからだ。
授業内容や学校生活について軽く質問した後、空席について聞いてみた。
「あの後ろの席になると思ったんだけど、誰か休んでるの?」
すると彼女、たった今名前を聞いた「米沢早苗」は困ったような顔をしてお茶を濁すように答えてくれた。
「あれはいつも休みっていうか…… あんまり気にしないほうがいいよ?」
この反応で大体予想がついた。あの席の主はその手の人間か。
キリスト教学校なんて俺にはお高すぎる所かと思ったが、どこにでもいるんだな。俺と合いそうな奴ら。
アイツがそういうタイプの人間になっているとは予想外だったが、まあ人間色々だからな。
昼休み、ちょっと話があるという米沢さんを「昼飯買ってくる」と振り切り購買部へ向かった。情報を得たかったのだが、こんな時間にやつらは登校してないかな。
お母さんが丹精こめて作ってくれた弁当ではまるで足りない10代の飢えた若者たちが購買部のパン売り場に殺到していた。
とりあえず俺も列に加わりコロッケ、ハムカツなどの惣菜パンを5個ばかり購入し列を掻き分け購買部兼学食の隅に移動する。昼飯を食いながら物珍しげに学校を見学する転入生を演じつつターゲットを探す。
いた。その手の奴だ。
わかりやすく茶髪。ぶっといスラックスを非常にだらしなく着こなしている。なにが気に入らないのか、周りをじろじろと睨みまくっている目つきなど、一体いつの時代の人なの? と質問したくなっちゃうほどだった。まぁおかげでわかりやすかったけどね。
俺は奴が購買部を出て一人になるまで尾行した。まぁ大体ああいう奴らは飯を食ったら一人になりたがるものだ。果たして奴は一人校舎の裏に消えていった。助かるなぁ。
奴を追っていくと人気のない校舎の隅が煙たくなっていた。
「やあ、ちょっといい?」
背後から明るく声をかけると奴はびくついて手にしていたタバコを投げ捨てた。バカモノ火事になったらどうする。消防団員としては看過できぬ。
「なんだてめぇは!」
三下三大台詞のひとつをわめき、奴は俺を威嚇した。
「僕、今日転校してきたばかりなんだ。知り合いが一人この学校に通ってるはずなんだけど会えなくてね。君なら知っていそうな気がしたんで声をかけてみた」
場違いに明るい好青年の登場に奴は調子を崩しながらも息巻いてみせる。
「ふざけんな、邪魔だ。とっとと行きな」
「そう言わずに教えてよ、松岡 瀬里奈というんだけど」
名を聞いて奴の顔色が変わった。
「松岡さんに何の用だ」
さんづけか。あいつ1年生のはずだが。俺と同級だからな。
俺は少々めんどくさくなっていた。
「知ってるんなら教えろ。お前らのたまり場はどこだ」
急に態度を変えられたんで奴はわめきながら殴りかかってきた。力任せの足腰が入ってないパンチ。
軽く左にかわして手首をつかみ背中までクイと捻り上げてやった。
奴はギャッとうめいた後、なおわめき続けやがった。
「ふざけんな放せ、ぶっ殺すぞ!」
「お前この体勢でよくそんな口をきけるな。なんか勘違いしてないか?」
手首を肩まで一瞬引き上げる。奴の叫びのトーンが一段上がった。
「俺は教師でも風紀委員でもない。お前らがタバコふかしてようがシンナー吸ってようが知ったこっちゃない。松岡瀬里奈に会いたいだけだ。素直に話せばお前がしゃべったって事は誰にも言わないでやる」
最後の一言が聞いたようでこのチンピラは口を割った。スムーズな滑り出しだ。一ヶ月も必要なかったかもしれない。
去り際俺は奴に500円玉をトスしてやった。
「俺に会った事は誰にも話すな。そいつは情報料だ。もうちょっとましなタバコ吸うんだな」
チンピラの表情なんて振り返りもしなかった。
私立ピース学園。この街の南東、ほぼ市の境にある中高一貫教育の学校だ。キリスト教の教えをベースとしたお嬢様学校だったが最近男女共学になった。野郎の制服はブルーのブレザー。女子は緑色のブレザーで俺に言わせると何の変哲もないスタイル。まぁ今は夏服だからYシャツにブラウスだ。
学力は上下の開きが大きい。要するに一所懸命努力しているやつもいればそうでないやつも仰山いるということだ。こういう場合目立つのは悪い方。それで市内ではピースではなく「ピンフ」と呼ばれ小馬鹿にされることが多い。ピンフの意味がわからない? 麻雀の一番安い手で「平和」と書くのでそれとピースをかけてだな…… まあいいか。
であるが何故か女の子には人気があり定員割れした事は無いという。現在も共学とはいえ男女比率は7対3で女が多いようだ。寮が充実しているのも特徴で全校生徒の4割が寮住まいだ。
私立らしく敷地が広いし海も近く立地条件はよい。防風林を兼ねてか木々も多くいかにもこの街っぽい雰囲気。その辺が人気の秘密なのか。
ま、とにかくここはこの街で一番有名な学校である事は間違いない。
今回のターゲットたる松岡瀬里奈は、この広い学校の北のはずれにある、あまり使わなくなったものを置いておく倉庫つまりガラクタ置き場をアジトにしているそうだ。まあありがちな場所だな。
作品名:便利屋BIG-GUN2 ピース学園 作家名:ろーたす・るとす