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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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「取引しないか。俺はとりあえずあんたの親玉の事は公表しない。証拠のメモリも渡そう。あんたにもこれ以上何もしない。俺の要求は」
「金か?」
 人の言葉を遮って下卑た事を言いやがった。偉そうな奴は常に自分が基準だから困る。
「その娘だ。そいつさえ返してもらえば、あんたの事はもう知らない」
 もう一言付け足した。
「俺は警察じゃないんだ」
 奴の車が見えた。ごねたら手荒い手段をとるしかない。ダッシュボードの中の銃を確認する。カーチェイス中の銃撃戦を想定して少々強力な奴をしまってある。
「信用できんな」
 やつは笑っていった。俺の言葉に嘘はなかった。正直こいつはシェリフが裁いてくれるだろう。奴のような人間には自分達の重大事と女の子一人を引き換えにするなど理解できないのだろう。俺はジュンさえ助けられれば、この場はどうでもよかった。
 たとえベンの仇でも。
「お前たちを皆殺しにすれば取引なんぞしなくても済む。あんな奴でも無事にすめば私の減刑位は簡単にやってくれるんだよ」
「そんな事してくれるわけないだろ」
 俺は冷ややかに言った。
「偉い奴なんて用済みは切り捨てる事しか考えてないぜ。大体なんでこんなばかな事に手を貸した。真面目に働いてりゃ金も権力も手に入っただろうに」
「偉そうな口を利くな、ガキ!」
 俺の言葉は奴の逆鱗に触れてしまったようだ。
「本流から外されてしまった官僚の惨めさが貴様らクズになど理解できるか!」
 奴は電話を切った。やれやれ。俺はダッシュボードの銃に手を伸ばした。
 その時、プジョーのリアガラスが砕けた。撃たれた。後ろから。
 バックミラーで確認する。いつの間にか後ろに馬鹿でかいアメ車がいた。さっきのやつじゃない。真っ黒で丸みを帯びたワゴン。全長約5.5m全幅2.2mもある巨体をV8-5.7Lのエンジンで引っ張る。ロングボードが後ろにすっぽり入るため、サーフィンのメッカたるこの街ではよく見かけるバカモノいやバケモノマシン・カプリスだ。サーファー仕様とも言うべきベタベタに車高を落としたシャコタンに改造された個体だった。色と形があいまって巨大なゴキブリに見える。
 電話が鳴った。非通知だ。この状況では相手は想像がつく。
「また会ったね兄ちゃん」
 知った声だった。警察署で強盗を撃ちぬいた男。
 震える殺し屋だ
「寂しくはなかったよ。後ろの車か?」
「ええ、ちょっと付き合ってもらいますよ?」
「悪いが急いでいる」
 少し疑問がわいた。
「なんで俺の番号知っている」
「兄ちゃん有名人ですからね」
 まぁしらべりゃわかるか。疑問はもうひとつ。
「このタイミングであんたが出てくるなら、コールマンが出張ってくる必要なかったんじゃないのか?」
 質問に男はまたあの薄気味悪い笑いをした。
「あたしはねぇ、女子供には手を出さないんですよ」
 そりゃ紳士だ。
「俺も子供って事で見逃さないか?」
 奴は少し笑ったようだ。
「兄ちゃん程の男にそいつは失礼でしょう」
「それはどうも」
「兄ちゃんとはやりあいたくなかった」
 言葉の割に嬉しそうな口調だった。少し震えているように聞こえた。
「なんでだ、あんた凄腕だろ」
「兄ちゃんなんかあたしと似てるからね」
 気持ち悪い事言いやがって。
「声が震えてるぜ?」
 すると奴は恥ずかしそうに笑った。
「白状すると仕事の前はいつもこうなんです。大丈夫、銃を握れば安心しますから」
「……」
「もう一つ白状させてください」
「聞こうか」
「兄ちゃんの仲間撃ったのあたしです」
 さして驚かなかった。コールマンに人を撃てるとは思わなかった。コールマンのずっと後ろから狙撃したんだろう。
「女子供には手を出さないんじゃなかったのか」
「彼は子供じゃないでしょ」
 うーん、どうだったかな。
「誘拐の手助けだろ」
 やつは心底困ったように答えた。
「ギリギリセーフって事で勘弁してください」
「勘弁するわけねぇだろ」
「そりゃそうですね」
 奴は何故かさびしそうに笑い、豹変した。
「そろそろ行くぜ、兄ちゃん」
 カプリスが接近してきた。床までアクセルを踏んでいるが見る見る詰められる。
 無理もない。こっちは1600cc、むこうは5700だ。最高速度はまるで違う。やつの下品なノーズがプジョーのバンパーを押し始めた。このまま壁にでも持っていくつもりか。海岸線はまるでカーブのない直線道路だ。どうしてもパワー勝負となる。
 コールマンの車はすでに視界になかった。仕方ない。
 俺は左にハンドルを切りつつアクセルを一瞬放す。106はけたたましくタイヤを鳴らしながら急激にターンした。減速によって荷重を前に掛けて舵を利かせるタックインというテクニックだ。軽くホイールベースの短い106は抜群のハンドリングを誇る。やつのオカマほりをかわし市道に切り込む。アクセルを床まで叩き込み加速をかけ奴を振り切りにかかる。
 だが奴のテクニックも素晴らしかった。
 素早い反応ででかく重いカプリスを豪快な4輪ドリフトに持ち込み俺の後を追ってきた。
「いい腕だな、おじさん」
「兄ちゃんもね。どこまで行くんだい?」
「今考えてるところさ」
 市街地の道と言ってもカプリスが通れないほど狭いわけじゃない。奴が通れなければいくら小さいといってもこっちも通れないだろう。どっかにはまって亀みたいに動けなくなってしまう。
 ふーむ。
「おじさん、車はこの街っぽいけど地元の人間じゃないね?」
「車は、さっき拝借したものだ」
 サーファー南無。
「そんな車、この狭い街には向かないぜ」
 いうなり俺は路地を曲がる。割と広い道。この間ジュンと帰りに通った道だ。
「誰か巻き込む前に早く止まってくれよ」
 このまま暴走を続ければ確かに市民を引っ掛けてしまうかもしれない。通報されて警察も出てくるだろう。
 今日はそれはまずい。
「兄ちゃん、その歳で誰に仕込まれた?」
 からかうような口調が消えて穏やかな声で話しかけてきた。
 ノーコメントだ。何故そんな事を聞く。
「なんでこんな事している」
「あんたはどうなんだ」
 今度はつい答えてしまった。
 奴ははにかんで笑っているようだった。
「これしか能がないからだろう」
「俺もそんなところだ」
 ちっ、無駄な会話しやがって。集中力が少し鈍っているのを感じた。
 俺は会話を中断することにした。
「もうすぐ目的地だ」
「それは名残惜しい」
電話を切り違う所へかける。情報屋「ちゅーりっぷ」だ。手早く用件を伝えると30秒もたたずスマホに情報が入った。さすがラーメン屋、こんな情報も持っているのか。
 よし、いいタイミングだ。俺はさらに路地に入った。ラギエン通りを北へ。つまり我が家の方へだ。
 波乗り踏切だ。頼むぜ、電車来てるなよ。
 果たして踏み切りは開いていた。情報通りだ。俺が要求したのはラギエン通りがすいているかと波乗り踏切が何分後に開いているかだった。 
 波乗り踏み切りだ。
 俺はほんの少しだけ減速すると踏み切りに突っ込んだ。波乗りどころか嵐の海のごとく車が弾んだ。
 だが猫足と称されるプジョー106の足は何とか衝撃を受け止めハーフスピンを起こしつつも踏み切りを乗り切ってくれた。
 そしてやつは。