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交響楽(シンフォニー)

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7.対決



私は、一瞬身体の中の血の気が全部引いたような気がした。

しかし、よく見るとその青年は高広ではなく純輝で、キャメルのブレザーもよくよく見れば彼の高校の制服だった。私の息をのんだ音に気付いた純輝は私を思い切り睨むと、
「松野さん、何でこんなになるまで気づかないんですか。さくらをこんな目に合わせるために、オレはあなたにお願いした訳じゃない。」
と言ってさくらの熱に浮かされた頬を撫でた。私は純輝の『松野さん』と、いつにない丁寧な言葉遣いに、思わず総毛立った。
「オレだって最初はただの風邪だと思ってたんだ…それに、さくらが一生懸命になったら何も見えない性格だってことくらい、あなただって解かってるんでしょう!だから、止めたんだ。なのに…もう、あなたにさくらは任せられません。返してください。」

皆にそっくりだと言われ続けて完全に自分が生まれ変わりだと思い込んでしまったのか、それとも本当に純輝は高広の生まれ変わりなのか…彼の口調は完全に坪内高広のそれになっていた。
だが、それがどちらだったにしても、私には言うべきことは一つしかない、そう思った。
「さくらから手を離せ!こいつは俺のものだ。」
私は彼に向ってそう言った。
「元々はオレのものだ。」
彼はそれに対して、逆にさくらの手をきつく握り直した。
「だとしても、今は俺の妻だ。君にはやらん。たとえ君が、あの坪内高広君の生まれ変わりだったとしてもな。俺の方が年上だからとか思うなよ。俺は君みたいにさっさとくたばったりしない、元々死にぞこないだからな。」
「オレだって死にたくなんかなかったさ。それで、やっとこうやってさくらのとこに帰って来たんだぞ…なんでソレ、邪魔すんだよ…オレにさくら、返してくれよ…」
私が薄く笑いながらそう言うと、彼は懇願するような口調でそう返した。
「駄目だ。」
「何で!」
「駄目なものは駄目なんだ。いい加減に目を覚ませ、純輝。」
「違う、オレは坪内高広だ!」
「君は坪内高広なんかじゃない、笹本純輝だ!!縦しんば本当に君が坪内高広の生まれ変わりだったとしても、君は笹本純輝として生まれたんだ。もう別の人間なんだよ。いい加減坪内高広の人生なんか引きずらないで、本来の笹本純輝の人生を生きろ!!」
「折角こんなに…こんなにさくらの近くに生まれてきたのに…何で…何で…」

その時、私たちの口論の声にさくらが目を覚ました。
「芳治さん、今何時?そろそろ帰らないと、子供たちが…あ、純輝来てくれたんだ、ありがとう。」
だが、薬の効いているさくらはそれだけ言ってまたスーッと眠りに入ってしまった。純輝はその寝顔を悲痛な面持ちでじっと見つめた後、
「チクショウ!!」
と、叫んで病室を飛び出して行った。