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剣(つるぎ)の名を持つ男 -拝み屋 葵【外伝】-

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 エレベーターから飛び出した後続部隊は、ホールに倒れている四人を見つけた。
 動揺が走り、動きが止まる。司令官や仲間に対する信頼の不足、いわゆる連携不足がもたらす不安。些細なものであっても、ミッションの成功率には如実に現れる。
 佐佑は、寄せ集めの急造チームではこんなものだ、と思う。
「ガスだ!」
 誰かが叫ぶ。いち早く意識の混濁に気付いた者が、警告を発したのだ。
 昏睡状態となるまでには、吸入から十秒弱のタイムラグがある。それだけの時間があれば、訓練された者は痛みで意識を繋ぎとめる方法を選択する。だが、意識の混濁に気付けるのは、既に痛覚が麻痺したあとだ。従って、痛みでは意識を保つことができず、昏睡を避けるためには、佐佑の呪念を取り除くしかないのだ。
 ほどなくして、佐佑を除く全員が意識を失った。
 佐佑は植物を成長させ、エレベーターの扉を開いた状態で固定した。こうしておけば、他階から呼び出しがあっても最上階から動くことはない。
 佐佑は、大きくゆっくりと息を吐いた。階段を駆け上がる足は鈍く、身体は重い。
 限界まではまだ幾許かの余裕がある。だが、疲労は無いと言えば嘘になる。できるならば、今すぐ家に帰ってシャワーを浴び、食事とともに酒を飲んで、翌日の昼までぐっすりと眠りたい。それが、佐佑の本音だ。
 佐佑が屋上へ戻ると、待っていた、とばかりにソフィアが口を開いた。
 ヘリポートの中心にいるリンダから離れたソフィアは、髄分と入口に近い位置に陣取っていた。
「どうやら軍部は、俺たちに反逆罪を適用するつもりらしい」
「えぇ、だいたいの状況は把握しているわ」
 ソフィアは、早くも臨戦態勢であった。
「陸軍を相手にすることになる」
 佐佑は、左手の具合を入念に確かめながら、無感情に言った。
「素人を相手にするのは主義に反するけれどね」
「厄介なのは、こちらの射程外から行われる狙撃だ」
「大丈夫。付近の大気密度を変えて、視界を歪めておくわ」
「蜃気楼を作れるのか。何でもありだな」
「雷を落とすような人に、そんなこと言われたくないわ」
 佐佑はソフィアに向き直る。
「私は、私の正義のために戦う。クサナギ、あなたはどうするの?」
 佐佑は、ソフィアの背後に横たわるリンダの亡骸に視線を飛ばした。更にその奥には、クローディアが眠っている。
 答えなど、疾うの昔に出ていた。
 佐佑は笑う。隠し事など何一つない、無邪気で無防備な笑み。
 それは、Code Name - Gladius【草薙佐佑】から最も縁遠い笑みであった。
「俺は、俺の愛のために戦う」
 ソフィアもまた笑みで応じた。

 遠くにヘリのローター音が聞こえる。
 足元に響いた振動は、エレベーターを固定していた植物を吹き飛ばした際の物だ。
 既に警告は発した。幻想と欲望を捨てよ、と。
 数分の後、ここは戦場となる。不老不死という幻想に駆られた愚者の兵が押し寄せる。
 この抵抗に、この篭城に、この戦いに、一体何の意味があったのか、と未来に生きる者は笑うだろう。
 笑えばいい、と佐佑は思う。
 逃げるよりも、目を逸らすよりも、笑われた方がいい。
 それこそ、“生きた”証なのだから。

「草薙佐佑、参る!」