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剣(つるぎ)の名を持つ男 -拝み屋 葵【外伝】-

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●5.the Witch (魔と交わりし者)≪2≫


 悪魔と交わり力を得た者。中世の欧州では、それを“witch”と呼んだ。
 誘惑に負けてしもべとなり、人と世界とに害を与えていた“witch”たちを裁いていたのは、実は民衆であった。
 魔女裁判と聞けば、キリスト教による異端審問というイメージが浮かぶかもしれないが、もとはそうではなかったのだ。
 英国では、魔法(妖術)行為禁止法なるものが制定され、それは第二次世界大戦が終わって数年が過ぎた一九五一年まで施行されていた。

 西暦一九五〇年、リンダ・クロウは三十歳で男子を生した。
 その子はリンダのように超自然の力を扱うことはできなかったが、頭脳明晰で商売の才能があった。
 リンダは、人外の魔性よりも人間による迫害を恐れ、決して力を使わずにひっそりと生きていたのだが、ある日ふとしたことで夫に知られてしまい、即座に失踪を決意する。
 そうして渡ったのが、魔法行為禁止法が廃止された五年後の英国。
 当時の首相は超自然の力に理解があり、その使い手たちを秘密裏に受け入れていた。詐称する者が多い中、リンダは本物であることを十二分に証明して見せ、現在のCMUの前身となる組織の長となった。
 その一年後、すべてが終わったあとにヘレン・ダンカンの事件を知ったリンダは、保身のために生きてきた自分を恥じ、戒めのために“the Witch”を名乗るようになり、次なる犠牲者を出さぬように尽力した。
 しかし、リンダの能力はエクトプラズムのような霊魂に関するものとは一線を駕していたため、スピリチュアリズム信奉者には受け入れられなかった。

 *  *  *

「霧が出てきましたね」
 それは、間を嫌ったクローディアが何気なく発した言葉だった。
 どことなく気まずい空気の中で食事を終え、食器を洗い、棚に並べる。そうして、ふと窓の外に目をやると、そこには濃い霧が立ち込めていた。
「人間は、霧に対して畏怖と恐怖を覚えていたの」
 リンダは窓の外に見える霧を見詰めながら、ゆっくりと話し始めた。
「やがて自然への畏怖を失った人間は、代わりに嫌悪を抱くようになってしまった。嫌悪と恐怖をね。神聖さを失った霧には、負の感情だけが向けられるようになった。そうして霧魔ミラビリスが生まれたのよ」
「それって、確か彼が日本から追って来たっていう……」
「ミラビリスは、人間が霧に対して向けた負の感情の集合体。封じることも、滅することもできはしない」
 クローディアはリンダの正面に座って続きを待った。
「炎を使えば霧を払うことができる。けれど、それはミラビリスの活動場所である霧を消しているだけ。イングウェイは、ミラビリスを倒す方法を探し続けていたわ」
「炎術士イングウェイ・マーカスですね」
「知っているのね」
 リンダは優しく微笑む。
 クローディアは、一度だけイングウェイと会ったことがある。二人を引き会わせたのは、イングウェイの弟子であったスコット・ローレンスだ。
 スコットは、クローディアを親代わりでもあった師イングウェイに紹介するため、エディンバラまで半ば強引に連れて行ったのだ。
 それは、佐佑の訪英よりもずっと以前のことだ。
「イングウェイからね、手紙が届いたの」
 リンダは取り出した便箋を広げて見せた。
 そこに書かれていた『剣に霧の先を知る方法を託す』という一文に、クローディアは目を細めた。まるで、この世で最も醜い物体を目にしたかのように。
「イングウェイ・マーカスが亡くなったのは、彼が英国を訪れる以前のことです。二人が会うのは時間的に不可能なのでは?」
「彼らは、これから出会うのです」
 勿体つけた口調で話すリンダに、クローディアは不快を顕にする。
「“これから”とは、どういう意味ですか?」
 リンダは何も答えずに、カップに残っていた紅茶を飲み干す。そうして、クローディアに視線を預けてから、ゆっくりと口を開いた。
「もうすぐ霧が晴れるわ。出掛ける準備をしましょう」