第1章 12話 『歩み寄るヒカリ』
「そんなもん私が知るか。別にいいだろうさ、約束は破るためにあるものみたいだからな。そんな禁止事項作る方が悪いんだよ。アーッハハハ♪」
いや、十分お前が悪いと思うぞ。
…まぁ、気持ちはわかるが。
「それで、そのマジカル何だかっていうのを注入された俺はどうなったんだ?」
「さっき貴様の秘められた魔力が微弱に目覚めだしていると言ったな。荒っぽい方法だが無理やりフェアリーオーブを注入して、独自の器による魔力を引き起こさせてやったのだ。初級魔法使いくらいの力は貴様次第で使えるかもな」
「ちょ…無理やりってよ。いいのか?そんなことして大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないか?確証はないけどな。死ぬよりはマシであろう??…フフフ♪♪」
「…おいおい、しっかりしてくれよ」
いつの間にか知らないうちに気がおかしくなってたとかっていうのはやめてくれよ。
これ以上の不条理な生活はごめんだぜ。
「フフフ…そう気にするな。だがまぁ、他にもちゃんとした方法はあったけど、あれは時間がかかるうえにかったるいからな。地道にっていうのはどうも好かん。それなら手っ取り早い方法を取るのは当然だろう。正しい方法は必ずしもそれが正解っていうわけじゃないからな」
「…おいおい。正しいやり方があるならそれでやるべきだろ。何が起こるかもわからん方法で、危険を冒してまですることはねぇんじゃないか?」
もしも、俺に何かあったらどうするんだ…。
「煩いッ!!口答えするな、馬鹿者!この私が決めたことに文句を言うな。私がいいと思ったらそれでいいんだよ。貴様は今、手助けされてる身だ。そこのところ、ちゃんとわきまえよ」
「…うっ」
相変わらず俺の意見は通らないのな…。そして、いつものごとく鬼のような恐ろしい形相で怒る。しかし、こんなちびっ子に恐れる俺って…。俺の威厳もへったくれもないな。
「…それで、話は戻すが、俺の中の魔力を引き起こしたって言ったな?じゃ、俺は、もう魔法とか使えるのか?」
「いや。貴様にはまだ無理だろう。魔法の知識も何もないからな」
「そうか」
「そうでもないかもしれぬぞ??初歩的な簡単なものなら出来るかもな。何せ、貴様は『鍵』だからな。それぐらいは出来ないとな…フフフ♪」
ヒカリは、俺を小馬鹿にするような目でニヤニヤと意味深に微笑む。
…何だよ?その目はよ。
「…それで、その簡単な魔法ってのはどうやるんだ?」
「ほう?貴様にしては積極的だな」
「そうでもないさ」
まぁ、俺もどんなもんが使えるのか興味があるし、どれくらい凄いのか見てみたいしな。
「よかろう。じゃ、ここに結界を張るから少し待ってろ」
そう言うと、ヒカリは扇子型マジカルステッキを取り出し、軽く振る。
「よし、それじゃ私の言う通りにやってみろ」
「ん?あ、あぁ」
今のでちゃんと結界とやらは張れたのか?…激しく疑問だ。
「まず、手を攻撃したい方向にかざし、次に、手に魔力を集中させるイメージを頭の中で思い描く。そして、一気にそれを放出する。たったこれだけのことだ。貴様にとっては内心解りやすくて安心してるんじゃないか?…フフフ♪」
「どういう意味だ、それは。まぁ、簡単に越したことはないな。よし、ちょっとやってみるか」
「それなら攻撃する対象物が必要だな。…ほれ」
持っていた扇子をくるっと1回転させると、前方に対象物が出現した。
「それ目掛けて狙ってみろ。ちゃんと結界張ってあるから、外れても大丈夫だぞ。フフフ♪」
って端から外れることを想定したやがるし…。
くそ、馬鹿にしやがって。
「この俺をなめるなよッ!!ぜってー当ててやるからちゃんと見てろよ」
「フフフ…よかろう。期待せずに見ててやる」
ヒカリの生意気な言葉を聞き届けると、俺は対象物に向かって手をかざし、そして、ゆっくりと目を閉じ、手に力を集中させる。
確か、手に魔力を集中させるイメージをさせるんだったな。よし…。
どんなイメージをすれば迷ったが、取り敢えずアレこれ考えず、解りやすいイメージを思い描いてみる。
どんなイメージかって?実に簡単だ。全身にある血管をまずは想像する。そして、本来なら血が流れているのだが、それを血ではなく魔力に置き換える。それで、その全身に流れてる魔力を手に向かって集中するイメージを思い描く。…こんな感じだ。
すると、俺の手が温かくなっていくのを感じた。ふと、目を開いてみるとそこには光り輝いている俺の手が目に入ってきた。…成功したのか?
「…ほう。やるじゃないか。あとはそれを対象物に向かって放つだけだぞ」
どうやら成功したみたいだな。あとはアレを狙うだけか。
…よし、ちゃんと視点を合わせて…っと。
俺は、精神を集中させるために大きく深呼吸し、しっかりと視点がずれないように構え、狙いを定める。-そして
「はぁッ!!」
手に集中させた魔力を一気に放出させた。…出来た。思ったのとは違うが俺にも魔法を使うことが出来たみたいだな。俺が放った光の弾は対象物の右隅をかすった。
「惜しいッ!くそ、ちょっとずれたか。あともう少し視点が合ってればど真ん中に命中させてたのによ」
「フン、馬鹿者が。何が惜しいだ。貴様は対象物を当てたわけじゃない。ただ、かすっただけだろうが。この程度で悔しがるんじゃない」
俺が悔しがってるところにヒカリがステッキで俺の頭を軽く叩いてきた。
「それは…まぁ…そうだけどよ」
相変わらずきっついなヒカリは。言葉一つ一つがトゲトゲしい。…まぁ、本当のことだから言われても仕方ないけどな。でもなぁ…。
「…フフフ。でもまぁ…最初にしては上出来だ。貴様ならこれをマスターするのは時間の問題だろうさ」
今のさっきまでトゲトゲしかったヒカリが急に柔らかい笑みを浮かべていた。
…いつもそうしてろよ。そっちの方が可愛いし、似合ってると思うぞ。
「まぁ、まだまだ全然私の足元にも及ばないがな。アーッハハハ♪」
…前言撤回。
やっぱり、いつものくそムカつくお子様魔法使いだ。
「フフフ♪まぁ話はそれだけだ。後は精々精進するんだな。じゃあな」
ヒカリはそう言うと、スタスタと歩いていってしまう。
「一つ聞いていいか?」
「何だ?」
俺は屋上を後にしようとするヒカリを呼び止める。
すると、ヒカリは足を止めてくるりと俺の方を振り返る。
「お前の意図はどうか知らんが、どうしてそこまで俺にいろいろしてくれるんだ?それも、ヒカリたちの協力をしないって言っているにもかかわらずだ」
協力を拒否する人間にここまでするか、普通。それも自分たちに利益を得るわけでもないのによ。
「フン!調子に乗るな。貴様は勘違いしている。別に私はお前のためにいろいろやっているわけではない。これはシェルリアのため、そして、自分のためにやっているだけだ。貴様は自分に決定権があると思っているが、それは大きな間違いだ。貴様に決定権などない。貴様は手のひらで躍らせれている駒にすぎん。まぁそれもいずれ解る時がくるさ。…フフフ」
ヒカリは意味深な笑みを浮かべてクスクスと笑っていた。
「フ…話はそれだけか?じゃあな、ハルト」
作品名:第1章 12話 『歩み寄るヒカリ』 作家名:秋月かのん