このホテリアにこの銃を (上)
2 ルームサービス
思い立って
スカーフ1枚
贈り届けた
同じ日に
同じホテルに
居合わせたのも
何かの縁
レストランでの
あの勇ましい
孤軍奮闘に
敬意を表して
ついでながら
ゴミ箱行きの
あのスカーフの
ごくささやかな
慰めにでも
なるだろうかと
部屋を探して
贈り主も
もちろん隠して
気まぐれな
ルームサービス
考えてみる
までもない
慰めになんか
なるより先に
受け取った主が
怪しんで
不審がるのが
目に見えるような
お節介
それでもよかった
いや
それで
終わるはずだった
見覚えのある
スカーフを
肩にまとった
君の口から
偶然にも
“ソウルホテル”
という一言が
こぼれなかったら
僕は今でも
まずまちがいなく
ニューヨークに
いただろう
「気に入った?」と
謎かけ半分
正体明かした
贈り主に
戸惑い顔の
君の口が
偶然にも
“ソウルホテル”の
ホテリアですと
名乗らなかったら
生きて再び
踏むまいと
20年忌み嫌ってきた
祖国の地に
すんなりと
僕が再び
舞い戻るなど
ありえなかった
韓国という
だけの理由で
まるまるひと月
断り続けた
とあるホテルの
買収話
「引き受ける」と
ある日突然
豹変して
ひとしきりレオが
苦笑した
あの日
あのレストランで
君を見たのは
たしかに偶然
だけど
どうしても
目が離れなかった
君のことを
追いかけると
決めたのは
僕の意志
作品名:このホテリアにこの銃を (上) 作家名:懐拳