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このホテリアにこの銃を (上)

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1 異国にて



恐れ入った

異国の街の
とあるホテルで
突然耳に
飛び込んできた
罵声のかけらが 
韓国語

しかも
女性の金切り声で
流暢な
英語の抗議に
たった一言
混じった悪態

それが韓国語

「もう沢山!
何てことしてくれるのよ!」

日も暮れて
混み始めてきた
レストラン
気色ばんで
人を呼ぶ
女性の声

振り返ったら
それが君

テーブルには
連れ合いらしき
人影もない

この遊興の街
ラスベガスで
女だてらに
一人旅なら
豪胆なもの

地元の人間
顔負けの
有無を言わさぬ
君の抗議に
支配人と
思しき巨漢が
冷や汗タラタラ
平身低頭

さながら
狂気の美女と
しょぼくれた野獣の
様相で
吹き出しかけて
ぐっとこらえた

筋を通さずに
いられない
向こうっ気の強い
お嬢さん

度胸は
褒めてあげたいが
これだけは知ってて
損はない

ナイフと呼ぶのも
腹が立つほど
その刃が全く
切れなかろうが

グラスにヒビが
入っていようが

コーヒーの
お代わりが
待てど暮らせど
来る気配すら
なかろうが

一流なんて
名ばかりの
こんな街中の
ありふれたホテルで
レストランの
サービスごときに
期待する方が
馬鹿げてる

まして期待が
外れたからって
バカ正直に
店に食って
かかろうなんて
愚の骨頂

テーブル2つ
離れた僕は
気楽な野次馬だったから

九分九厘
韓国人らしき
見ず知らずの
お嬢さんに
振り返った肩ごしに
頭の中で
同情半分
忠告してた

ひとしきり
支配人を懲らしめて
それでも下がらぬ
溜飲を
持て余し気味の
客とも知らず

来るタイミングも
絶妙なら
テーブルの上の
スカーフに
コーヒーまで
こぼしてのけた
おっちょこちょいな
あのボーイこそ

レストランじゅうの
度肝を抜いた
君の悪態の
哀れな標的

人間誰しも
カッとなったら
最後の啖呵が
母国語なのは
洋の東西
問わないらしい

怒り心頭に
発した君は
茶色に染まった
スカーフに
やり場のない
怒りを込めて
席を立つなり
ゴミ箱に
いやというほど
叩きつけた

微笑ましくて
圧倒された

少なくとも
威勢の良さでは
生まれて初めて
目にする部類の
女性だと

そう確信して
苦笑した

韓国なんか
遠い昔に
愛想を尽かした
この僕が

まさか
同郷のよしみに
ほだされたわけでも
あるまいが

おしとやかには
ほど遠く
おてんば娘が
そのまま大人に
なったみたいな
怖いもの知らずの
お嬢さんに

目が止まったまま
離れなかった

「結婚しないのか?」

眺めてたメニューから
目を上げて
10年来の相棒レオが
僕に呆れたのは
つい今しがた

「仕事より
女の方が
楽しくなったら
考えてみる」

そうそっけなく
返事してから
3分とたっていなかった

奇妙な夜だった