夕方の星が煌くように
「うん、良くなった」彼女の笑顔が喜んでいるように見えた。
「そうか、やっぱりありがとうな。来てくれて。少ししゃんとした」
「どういたしまして。それで?」
「それでって?」
「呼び出したんでしょ。いいことが始まるんでしょ」
「だな・・・。せっかく来てくれたんだ。喜ばせないとな」
「そうそう、それがあなたのいいとこよ。女を喜ばせるのが似合うあなた。センスのいい優しさも私は好きだわ」
「そうやって褒めてくれると、ますます元気が出てきた」
「そうそう、がんばりなさい」
「んっ、夜もか?」冗談を言った。
「ははっ、その調子。ふられたっていいじゃない。恋愛にはつきものよ。そうやってだんだん男前になるんだから。昨日の恋より明日の恋。輝く未来が待っている~・・なんちゃって」
「ありがと。よかったら僕をもっと男前に育て上げてくれ」
「それって、しばらくそばに居てもいいってわけ?」
「昨日の今日じゃ、馬鹿すぎるだろ・・・。とにかく、来てくれて嬉しい」
「なんだ、また付き合ってくれるわけじゃないんだ。少しは期待してたのに」
「それが君の本音だったのか・・ははは」
「じゃ、あなたの本音は?」
「似たようなもんだ。寂しさをごまかそうとしてた」
「知ってるわ」
「だけど、開き直った。元気になった。君のおかげだ」
「誰かに『君のおかげ』って言われるのは気持ちいいわね」
ちゃんと目を見て、心から話しをするとスッキリ本音が言えた。僕は彼女の手を感謝とちょっと下心を込めて手にとった。
「あら、久しぶりだわ。男の人に手を握られるの。ほんと久しぶりなのよ。興奮しちゃう」
彼女は笑って、僕に握られた手の指を動かし絡めてきた。
「他人がこれを見たら気持ち悪い中年男女だ」
「あらそう?仲の良い大人のカップルじゃない?」
「カップルってのは恋人同士のことを言うんだよ」
「元恋人同士でもいいじゃない」
「そだな・・・・ありだな。飯でも食いに行くか」
「その後は考えないでね」笑って彼女が言った。
「それって、本音?」
「・・・・・・ううん!」
僕らは陽が沈みかけた夕暮れの浜辺のレストランを後にして、オープンデッキの上を二人並んで歩いた。一つだけ星がブルーグレーの空の色をした頭上に輝いていた。
(完)
作品名:夕方の星が煌くように 作家名:海野ごはん