小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
皆見 さつき
皆見 さつき
novelistID. 51872
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

瑠璃色の夏休み

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 



 祖母はいつも決まった時間になると、宮中の一番奥にある祈りの部屋に現れる。それを知った幼い頃の白尋(あきひろ)は、祖母が現れる時間に自分も毎日のようにそこへ通った。
「白尋、また来たのですか」
「はい」
 そう元気よく答えると、祖母は困ったように小さく微笑んだ。今思えば、あれは祖母の中での小さな儀式のようなもので、誰にも知られたくないものだったのかもしれない。しかし、優しい祖母は毎日のように現れる白尋を追いだしたりはせず、毎回隣に置いてくれた。
「お祖母さま、また瑠璃の星を見ているの?」
「そうです」
「なぜ毎日同じ星を見るの?」
「大事な方があの星にいらっしゃるからですよ」
 そう言った時の祖母の表情は今でも鮮明に覚えている。だが、まだ幼かった白尋にその表情の裏に隠されたものを読み取ることは不可能だった。
 いつものように隣に腰を下ろすと、祖母をまねて天井を見上げた。この星の人々は地下で暮らしているため、瑠璃色の星はこの部屋からしか見ることはできない。隣に寄り添うように存在するこの瑠璃の星は、信仰の対象だった。
「あのお星は、人が住んではいけないお星でしょう?」
「ええ、月の人は住めないのです。空気が違うので、長く暮らすと体を悪くして命を落としてしまうのですよ」
「それなのにお祖母さまの大事な方はあのお星にいるの?」
「そうです。その方は、瑠璃の星に生まれた方なので月の人のようにはなりなせん」
「お祖母さまは、もうその方には会えないの?」
「瑠璃の星へ向うにはもう一度罪を犯さなければいけませんね……」
 瑠璃の星は信仰の対象ではあったが、罪人を送る場所でもあった。ふたつの顔を持つ星は、普段人々の間で語る事はタブーとされている。
「瑠璃の星はどんなところ?」
「とても素敵なところでしたが、羽衣のせいでもうほとんど覚えていません」
「もう羽衣は着ていないのに」
「羽衣の力はとても強いのです。白尋、もし羽衣を着なければならない時があれば、大事な記憶は心の奥底に隠してから着るのですよ」
「はい」
 その意味を知らずに返事をしたが、祖母はそれでも満足そうだった。
 祖母が一度瑠璃の星に送られたことは、小さな白尋も知っていた。それは宮中に限らず、月の者なら誰もが知っている。瑠璃の星送りになってからその後許されて迎えが行ったのは、祖母の例以外にほとんどなく、とても珍しいことだったからだ。祖母が許されたのは、当時の前帝の娘であったからだ。とりわけ高貴な身分であったために許された、と祖母は話した。
 普通の罪人は二度と罪を犯さぬように、羽衣を着せられるだけで済む。羽衣は人の心を奪うもので、罪人以外の者は空を飛ぶ時しか着ない。空を飛ぶ時も極めて限られている。その一例が罪人を瑠璃の星へ送る時だ。
 瑠璃の星へ送る、ということは死を意味し、二度と月へ戻って来ることはできない。そのような処罰が与えられることはなかなかない。
「お祖母さまはなぜ瑠璃の星に行ったの?」
「それはまた次の機会に話しましょうか」
 祖母はそう言うと白尋の頭をひとなでして、頭上の星に視線を戻す。
 祖母はとても美しく優しい人だったが、どこか遠い存在の人だった。いつも心ここに在らず、といった雰囲気をただよわせていて、それがまた瑠璃の星送りになった特殊な人の空気なのだと宮中で噂されていた。
 そんな祖母の話を聞くのが好きで、白尋は祖母のもとから離れなかった。

作品名:瑠璃色の夏休み 作家名:皆見 さつき