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夏経院萌華
夏経院萌華
novelistID. 50868
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短編集~サービスなんで~

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 朝、7時半、車は運転手つきで到着した。ややイケメンの運転手に妻も娘も興奮気味。俺は少しイラついたが朝から、いや、これから大切な思い出つくりに行くのだ。俺はその気持ちをぐっと抑え車に乗り込んだ。妻も娘も、当然俺も道中疲れもせず、時折眠りながら、運転手も空気のように振る舞い、楽しいドライブを続けた。
 目的地に着くと運転手は「娘さんは私が面倒を見ますのでお二人はご自由におたのしみください」と言うのでその言葉に甘えて、新婚気分を味わった。
「この運転手つきのプランもいいな」と言うと妻が「そうね」となんだか落ち着かない様子だった。やっぱり親子夫婦水入らずの方が良かったのかなぁと思った。
その日の宿泊は豪華なディナー。運転手は隣の部屋に居て「何かありましたらいつでも呼んでください」と一礼をし、ドアを閉めた。
楽しい一家団欒。お酒も進む。妻もやたらお酒を勧めてくるので珍しいなと思いながらも酒を飲む。そしてそのまま眠ってしまったのだろう。
トイレに行こうと体を起こすと居るはずの妻の姿が見えない。
おそらく温泉に入りに行ったのだろう。そう思い、トイレに向かった。
すると隣の部屋から喘ぎ声。運転手がなにやら女性でもつれこんでいるんだろうと思った。その時、俺は思った。まさか・・・・
ドアのノブに触れる。回る。そしてそっと開け、中を覗くと、あられもない姿の妻が腰を振りながらあえいでいる。
「何やってるんだ!」と俺は叫んだ。
すると、運転手はビックリして立ち上がる。そして一言。
「これ・・・・サービスですから」と言い放つ。
そして妻も
「そう・・・サービスみたいなの・・・・」と言うとぐったりしてしまった。
「これってサービスなのか・・・・」俺は頭が混乱し、そっとドアを閉めた。
         
                       おしまい

            温めますか?

 もうこの仕事を辞めたい。なんでこんなに辛いんだ。
僕の心もこの季節のようにずっと冷たかった。
家に帰っても独身の僕に温かく迎えてくれる伴侶などいない。
僕の恋人であり母親であるのは、夜のとばりが下りる中、煌々と光り輝くコンビニの明かり。そして虫のようにそこに吸い寄せられるのだ。
 今日も残業で帰りがけにラーメンを食べたからとりあえず、酒と雑誌をかごに入れレジに向かう。レジの店員はとびっきりの美女。いつもこの時間に働いてる。そのせいか、いつもこの時間のコンビニはむさい男どもが群がり、たむろしていた。もちろん、僕にとっても彼女は女神であり、吉祥天女であった。だけど、それ以上望むことなくいつもレジで会計を済ませて帰る。それだけで幸せだった。
「ありがとうございました」とほほ笑むあの顔さえ見れたらそれだけで満足だった。そして、レジにかごを置き、レジを打つ彼女。すると彼女が
「温めますか」と訊いてくる。
今日は温める物は買っていない。なぜそんな事訊くのだろう。いつも癖で行ってしまったのか。たぶん、しまったと思い、頬を赤く染めているに違いない。僕はそっと顔を上げ彼女を見ると
「温めますか」と又訊いてくる。
一体何を温めるのか。この彼女はおかしいのか。それとも僕の荒んで冷たくなった心を温めてくれるか。だから僕は言ってみた。
「お願いします」と。
「かしこまりました」と言うなり、レジから彼女が出てきて僕を抱き、
「1分だけですよ」と言いギュッと僕を抱きしめた。
僕は何だかわからない。周りのむさい男どもの視線が痛い。
どうして彼女は僕なんかに。もしかして・・・・好きとか。
あらゆる妄想が駆けあがる。そしてすぐに1分が経ってしまった。
「温まりましたか」と満面の笑みで僕を見上げる。
「はい。だけど・・・どうして」と言いつつも僕の事が好きなんじゃないかと言う期待を込めていると、
「サービスなんで」と言いさらに
「サービスなんで期待しないでくださいね」とニコッとしてレジに向かい商品を詰めて僕に手渡した。そして僕は悶々としながら家に帰った。
                         
                            おしまい

                  了