宝の地図
おじいちゃんが手にしていた懐中電灯を灯けた。古い蔵なので当然電気はひいてない。蔵の中の視界は照らした懐中電灯の範囲を除けばぼんやりとした影くらいで、たまに光に驚いた虫が動く音を聞いて、私は小さな悲鳴をあげた。
「おじいちゃん、そもそも蔵ってなんの為にあるの?」
「ほぉ?麻衣子も現代っ子じゃのぅ」
おじいちゃんは笑いながら私に教えてくれた。昔の人は農作物などを今のように大きな倉庫で保管する施設がなかったから、畑で採れたものをここで保管したり、農器具を置いてたりしていたそうだ。建てられた頃には必要とされたものであって、便利な今の時代に合ってないものだということだ。
「建物も人間と一緒で時代に合わす必要があるんじゃな。麻衣子にはアップデートって言うたらええかの?」
おじいちゃんは今年でちょうど70歳なのに、私たちが使う言葉にも敏感で、若者の考え方が分かる人だと思う。いつも私たちのために一生懸命になってしてくれるおじいちゃんが私は大好きだ、躾だと言ってすぐに怒ることを除いて――。
蔵の中にあるものは、農機具の他には古いタンスや、机、洗濯機や電話機などの電化製品や機械まであった。それらが現代社会では使わないものであるというおじいちゃんの解説もあるが、私にとっては馴染みがない。洗濯機は入れる所が二つもあるし、電話機は黒くて正面に丸い穴の空いた円盤みたいのが付いている――。それはそれで博物館に来たような気がして面白いけど、最初に私が期待してたものとは徐々に違うことがわかり、蔵の蒸し暑さが私を現実に引き戻しつつあった。
「麻衣子、この奥にある金庫を開けてくれんか?」
おじいちゃんが言った単語に私は覚めつつある期待が再び膨れ上がった。
「え?今金庫って言ったよね?」
中学生の私でもそれが「大事な物を保管する物」であることは知っている。中に何があるのだろう。
「そのタンスの後ろの奥の奥、見えるか?」
私はおじいちゃんから金庫の鍵と懐中電灯を預かり、タンスを上り、机をくぐり、制服やスカートが砂と埃まみれになりながらも、蔵の一番奥に眠る金庫にたどり着いた。
「おじいちゃーん、あったよ、金庫」
大きさにして高さ1メートルもない位の真っ黒な金庫。暑いはずなのに金庫に手を触れるとひんやりと冷たい。そして正面にはテレビで泥棒が聴診器を当てて回すダイヤルみたいのが付いている。
「イロハニホヘト……」ダイアルがカタカナ書きだ、途中に私の知らない『ヰ』とか『ヱ』とかいう字がある。一体いつ頃の金庫だろう。
ここまできた達成感とずっとずっと私を待っていたかのように静かに座っている黒い塊が、私に助けを求めているように見えた。
私はおじいちゃんの言う通りにダイアルを回し、最後に鍵を回すと、ガチャッという重たい音がした。
「開いたよー、中見ていい?」
おじいちゃんに中を確認していいか聞いたけど返事は聞こえなかった、どうせここまでこれないだろうから。
「マイコは宝箱を開けた……」
私は高鳴る鼓動を抑えながら、ゲームの主人公になったつもりで自分で台詞を言いながら金庫の扉を開けた。
中に入っていたのは暗くてよくわからなかったが、図がかかれた一枚の紙切れだけだった――。