筆者クーデター
琴夜は鞄からオール10の成績表を取り出し、お母さんに見せた。
「凄いわね。オール10じゃない!お父さんに見せたら喜ぶわ。よく頑張ったね」
完璧じゃない!何でもできる!こういうのはどうかな?
琴夜は本棚から漫画を取り出した。彼女が一番好きな、漫画だが、先月打ち切られてしまったのだ。しかし、琴夜は、ちょうど今、編集社で、連載継続が決定し た事を、知る由もなかった。
これは楽しみに待っておこう。実験も兼ねて。
琴夜はやりたい事リストを書いた。便利だ!鉛筆を動かさなくてもいい!
そりゃあ大学の教授さんも来るだろうね。あ、あの人また来るのかな?家に来られたら困るなあ。そのとき・・・ええと、何だっけ?阿湯葉道流は、山吹琴夜の 事をすっかり忘れて、別の研究に没頭していた。
これでよし。
そのころ新太先生はある要件で琴夜に電話するため、データベースで電話番号を検索していた。
携帯電話がかかって来た。誰だろう?琴夜は阿湯葉を想像しながら恐る恐るボタンを押した。
「やあ」
その声は筒井先生!どうして私の電話番号を知っているのですか?
「僕は担任だよ。それくらい知っている。今から会えるかな?話したい事があるんだけど」
もちろんです。どこに行けば良いですか?
「そうだね、実は近くに来ているんだ。みのり公園はどう?」
分かりました!すぐに行きます!
「待っているよ」
やった!最高!
琴夜は階段を駆け下りた。三段程下りたところで、左足が思ったより滑ってしまい、階段から落ちた。しかし、無傷で着陸。セーフ。
敵無しじゃない!
お母さん!美香の家行ってくる!ノート見せてもらいに!
「夜なんだから、早く帰って来なさいよ」
とは、お母さんは云わなかった。
はーい!
こより公園までは約二十分かかるが、琴夜は能力を使って、一秒で周辺に到着した。こんなのもオッケーなんだ。
みのり公園は狭く、せいぜいテニスコート一面分程だ。
ベンチに人影が見えた。こっちに気がついたようだ。新太先生!
「やあ、ありがとう来てくれて」
先生との距離はあと五メートル。
四メートル。
三メートル。
二メートル。
一メートル。
それ以上近づけなかった。
激痛。頭に何かが当たった。
何・・・ですか・先生・・・
「銃だよ」
「やったか?」
阿湯葉は近づいてきた新太に向かって聞いた。しかしその答えは先ほどの書き方を見れば一目瞭然で、聞く必要はなかったが、これは建前ということで。それに彼の白衣には返り血がついていた。と書き足せばなにも問題ない。
「ご苦労さん」
「何が?」
新太は無表情で「こっちの話だ」と答えた。
「奴はどうして僕らに彼女を殺させたんだ?というか、そもそも書かなければ良いわけで…」
新太は阿湯葉の質問を無視した。
「やれやれ。結局話題作りだったってことか?わざわざ自分の脅威になるようなキャラクタ書いてさ。失敗したらどうしたんだ。失敗したらそれはそれで面白いとか言わせませんよ。あれ、もしかして続編あるかな?」
「今回の阿湯葉はうるさいな」
「治らんよ。文句言えないし」
「彼女も、君に才能を明かされてから、能力を使い出した。それまでは、地の文に 流されていた。彼は彼女を試したかったか、君の云うように話題作りか、素材作りか…」
「少しの間だけでも括弧の制約がなかっただけでも幸せか…」
新太は阿湯葉の言葉はを最後まで聞いてから、歩き出した。
「またどこかで」
不意に空を見上げた阿湯葉は、視界の端に空が構成される様子を一瞬だけ捉えた。これがもうすぐ、『。』で消え去るわけだ。