小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヤマト航海日誌

INDEX|9ページ/201ページ|

次のページ前のページ
 

2014.9.13 ついに解かれた〈シャアの三倍〉の謎



出渕裕が自分の描いた〈ガルディーン〉というロボットを白と黒に塗り分けて、手にリボルバー拳銃を持たせる。その画を漫画家のゆうきまさみに見せて、


「これはパトカーロボットで、ドラマの『西部警察』みたいにヤクザのロボットと戦うんだ」


ゆうきまさみは『バカがまたくだらんことを』と思いながらも話を受けて、それをマンガにしようとなった。ではリアルな設定とは?


「パイロットは十六歳の美少女」

「ダメ」

「じゃあとにかく女」


というので出来たのが『機動警察パトレイバー』である。大体そんなところである。

世の中、企画・原案者のアイデアだけはいいけれど、そいつにまんま作らせていたらどうなっていたかというモノがあるものだ。『宇宙戦艦ヤマト』もそれで、西崎義展の荒唐無稽な発想を松本零士が直して直して、直して直して直して直してリアルなものに作り変えた。オリジナルはいま見ても充分にリアルであるとおれは思う。たとえ真田の両手両足が義手義足で、急に爆弾になってドカンといったりしてもだ。

困るのは変な話を直すのに、もっと変な案を持ってくるやつがいることだ。たとえば古いアニメの中で、敵のなんだか赤いロボットが、通常の三倍とかいう速度で味方に迫ってきたとしよう。『三倍』って一体なんだ。それ、リアルな数字なのか。

この実にくだらなく、どうでもいいような問題が、〈フェルマーの最終定理〉とか〈リーマン予想〉などと同じく多くの人々を長きに渡って真剣に悩ますことになろうとは、誰が予測したであろうか。悩まなくていいのだ、こんなの。ハハハと笑って許して忘れてそれで済むことなのに、大のおとながこれに人生を費やしてどうする。

この〈三倍問題〉にマジメに取り組む人間を、おれはずっとバカだバカだと思って見ていた。しかしおれが知らないうちに、いつの間にかひとつの決着を見ていたようだね。〈三倍の謎〉を解き明かした者らは言う。


「見よ、この『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメを。この作ではパイロットがロボットと一体化することで、そのパワーを飛躍的に高めるのだ。一体化率が四百パーセントに達したとき、力は本来の四倍となる。ロボットは四倍の速度で走り、四倍の高さにジャンプし、四倍のパンチで敵を殴るのだ」


あのね、そういうアニメはね、本気で見るとバカになるよ。


「何を言うか。〈シャアのザクは三倍〉の謎も、ついにこれで説明がついた! あれは普通の〈量産ザク〉を赤く塗ってツノを付けただけのものだが、シャアが乗るとその性能は三倍になるのだ! だからロケットの速度は三倍、腕や脚の力も三倍、装甲の強さも三倍で、マシンガンの威力も三倍だ! だから〈ルウム戦役〉で、シャアは五隻の戦艦を沈めることが可能だった!」


ううむ、見事な……って、いや、あのな。『エヴァ』とか『トップをねらえ!』みたいなアニメはそれでいいかもしれないよ。でも『ヤマト』や『ガンダム』に同じ考えを持ち込むなよ。と、今どきのアニメ作家やラノベ書きに言っても通じないんだろうな。誰も彼もが出渕裕になってしまったヲタクの世界に向かい、おれなんかが何を言っても無駄であろう。

『2199』第一話では、ガミラス艦に歯が立たない地球側の船の中で、古代守の〈ゆきかぜ〉だけが次から次に敵を沈める。地球の科学は絶対的にガミラスに劣り、ビームもミサイルも普通はハネ返されるだけだが、〈ゆきかぜ〉は違うのだ。古代守が艦長なのであらゆる性能が数倍化され、ガミラスより強い船になるのであろう。

加藤がエースになったのも同じだ。〈コスモファルコン〉がガミラスの戦闘機と闘うのは、プロペラ機のゼロ戦がF/A-22〈ラプター〉と闘うようなものなのだが、そこが〈腕〉の問題である。昔の〈零〉に加藤が乗ればマッハ2の速度で空を駆け、現用ジェットと互角以上に渡り合えるようになるのだ。さらに山本が〈零〉に乗れば速度はマッハ5になって、アメリカ軍の司令官が『ぜ、全滅? 十二機の〈ラプター〉が全滅? 三分もしないでか! あんなプロペラでか!』と叫ぶことになる。

出渕裕的人間の考える〈腕がいい〉とはそういうことだ。古代進もまるで経験ゼロのくせに〈学校の成績が良かった〉から山本の〈腕の良さ〉がわかる。その古代がナントカ長として乗っているから『2199』の〈ヤマト〉は強い。

第二話では百パーセント、第三話で二百パー、第四話で四百パーと船とシンクロしていくために、〈ヤマト〉は八倍、十六倍と力を増して、一度に戦う敵艦が三十二隻、六十四隻と増えていっても蹴散らせるということになる。これだと当然、最終第二十六話で向かう敵は一億になるが、大丈夫。森雪がモニターを見て、


「すごいわ、古代君の力は今では百億パーセント。これなら敵が一億いてもヘッチャラよ!」


で、古代が「てーっ!」と叫ぶと〈ヤマト〉から一億本の光が放たれ、一瞬にして敵が全滅……おれは『2199』を早送りでダーッと見ただけなんだけど、こんな感じで間違ってないよね? だってこうとでも解釈しないとあの強さの説明がつかんし。

『ヤマト』に限ったことじゃない。こういうのが現代では当たり前になってしまって、おれみたいな人間が『荒唐無稽』とあきれて言っても、『いや、それは誤った古い考え方だ。今はこれがリアルで正しい』と退けられておしまい。出渕裕とその同類に牛耳られたキモヲタ窟からまともな『ヤマト』のリメイクなど決して生まれてこないだろうな。

結局、これも西崎義展が遺していったものかもしれない。西崎さん、オウム信者が麻原の教えを守り続けるように、『ヤマト』を今も作り続ける者達はあなたの〈リアル〉を忠実に受け継いでいるようですよ。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之