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ヤマト航海日誌

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さて、昔の太平洋には〈安全圏〉というものがあった。地球は丸くて水平線が船の姿を隠してくれて、レーダーなどの技術もまだまだ未成熟。さらに雲だの霧だのという気象条件も味方する。連合艦隊南雲提督は、いつも自分の乗艦を安全圏の中に置き、駆逐艦だけ敵に向かわす男だった。


「キミ達、どうか、国のため、盾になって死んでくれえ。ワタシは明日の日本のためにここで死んではならぬのだ。ワタシのために死ねるのだからキミらはさぞ本望だろう」

「返信です。『バカ野郎!』」

「ん? なんだろう。敵が降伏でも勧告してきたのかな」

「そうに違いありません。アッパレな最期です」

「そうだな。決して、彼らの死は無駄ではない。米英どもは恐れをなして二度とこのワタシの海に近づこうとはするまいよ」


これが日本の〈提督〉だった。高校生のオヤジ狩りにでも遭ってしまえと言いたくなるのはおれだけではないだろう。

『艦これ』とやらの〈提督〉も全員オタク狩りに遭え、出渕なんかを崇めるカスにはそれが当然の報いだ、と、言いたくなるのはおれだけではないだろう。山崎貴と出渕裕は昔の愚かな軍人と何も変わるところがない。東条英機や昭和天皇と何も変わるところがない。

アッツ島が玉砕したとき彼らは叫んだ。「ありがとう。みずから国の盾になってくれたのだな。もうアメ公は北から攻め込もうなどとバカなことは考えまい。もう日本は安全だ!」。最初の〈零〉がカミカゼ特攻したときも、硫黄島を取られたときも、やっぱり同じことを言った。九州の先で〈大和〉が沈んだときも、南雲提督は自分の家であぐらをかいて笑っていた。「ウムウムそうか。〈大和〉もついに盾になったか。素晴らしい! これで日本に戦える船はなくなった。 だからもう戦わなくていいわけだ。後はやつらが降伏するのを待つばかり!」

なんでだよ、とおれに言うなよ。ホントに昔の〈お武家さま〉はこんな調子だったんだから。どうしてこんな理屈になるかは、タイムマシンでバカ殿さまに会って直接聞いてくれ。

でなきゃ山崎と出渕が今の日本で生きてんだから会いに行って聞けばいいだろ。このふたりが南雲とまったく同じ種類の〈提督〉なのは、『実写ヤマト』と『2199』の最初の二分でわかるじゃねえか。古代守が沖田に向かって「ワタシが盾になります! アハハ!」と言うときにさ。

常識的に考えたら、〈ヤマザキ沖田〉や〈ぶっちゃん沖田〉が生きて戻れたはずがない。千のガミラスは〈ゆきかぜ〉なんか目もくれずに沖田を追って飛びかかるか、一隻だけを〈ゆきかぜ〉に向けて残り999で沖田を襲うかなのだから。古代守は盾になんかぜんぜんならん。あそこで死ぬのは無駄死にである。

〈きりしま〉は中学生に河原で狩られる無力なホームレスなのだ。悪ガキどもは野球のバットとエアガンで武装し、抵抗できない弱者を襲う。〈沖田艦〉には万にひとつも逃げ延びることは……いやまあそれを言うのならオリジナルがもともとヘボタコだという話にはなるんだけどさ。

しかしそれでも、オリジナルの古代守は「ボクはイヤです! ひとりでも多く敵を道連れにして死にます!」だから、見ながらグッとさせられもするんだ。そうだ。もちろん、この状況で男が血を吐くように叫ぶセリフはこれだ。これでなくてはならん。だってそもそも人類の最後の望みを懸けた戦いだったはずなんだもの。これに勝てたら人類はあと何年か長らえられる。しかし敗けたら一年で滅亡――と、そういう戦いだったんじゃねえのかよ。どう考えてもそうなるじゃねえかよ。

なのにそこで敗けちゃったんだぜ。そういうときに、一体何が、「あなたの盾で死ねるのならば本望です」だバカ野郎。てめえだけカッコいい気でノボセんじゃねえ!

かつて、昭和の太平洋で、駆逐艦の乗組員はみな無念の死を遂げた。軍歌を歌って笑って死んだ人間などただのひとりもいなかった。みな卑劣な提督を呪って死んでいったのである。昭和天皇は原爆が落ちるその日まで、奇跡が起こると信じていた。出渕裕が「信じるのだ」と、『2199劇場版』公開の日に言ったように。

1977年の奇跡再び。そうだ、最初の『劇場版』も、ほんの数館、二週ばかりの興行予定だったではないか。それが蓋を開けてみれば、映画館は連日満員、フィルムは何百もプリントされて、日本中の劇場に夏の間ずっと客が詰めかける大ヒットになったのだ。

はばかりながらそのときに旗を振ったのはこのオレだ。オレがリメイクした『ヤマト』が神風吹かさぬはずがない!

ああ、しかし、二度目の奇跡はなかったのだった。『スケベ人間の方舟』が映画館を満員にしたのは声優が舞台挨拶する初日の初回だけだった。次の日、客席はガラガラで、まるで広島か長崎の焼け野原のようであった。

そうなることは、おれに言わせりゃ、最初の二分で古代守に「本望です」と言わせたときに決まってたんだよ。ぶっちゃんよ。なんだかどうも今回は話がマジメになっちゃったなあ。どうしてこうなったのかなあ。不覚だ。おれも修行が足りんな。


(付記:このログは『不意を突くべし』と同時に出して、その後しばらく『スタンレー』は中断していた)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之