ヤマト航海日誌
『いい腕だ』っていうのは魔法の言葉だよ。自分は特別な存在だから、何をしてもいいとバカに思わせる言葉だ。オリジナルの『ヤマト』では船を勝手に飛び出しては〈コスモゼロ〉をぶっ壊すのは古代だった。反省せずにフテ腐れて、毎週毎週同じことを繰り返すキャラだった。それが『2199』では山本の役どころになって、〈コスモレイ〉で飛び出しては、古代にかばわれ、
『山本に行くなと言った者の方が間違ってます』
『だからってな』
『勝手に〈レイ〉で飛び出すのは違反だと言いたいのですか！』
『わかってるじゃないか』
これでわかるわけがねえじゃん。〈ぶっちゃん古代〉に任せたらイスカンダルに行くまでに〈ヤマト〉は二十六回沈むよ」
「だからってな」
「だからそうじゃなく、『ふざけんな』と言えと言っているだろう！ おれみたいな人間がここにこんなこと書いてるなんて、どう考えてもおかしいじゃねえか。あんたはとにかく何から何までダメだから、『だからってな』としか言えないんだよ、ソレイホさん。『ふざけんな』と言えるだけの仕事をなんにもしていない。だからおれみたいなやつに、先に言われちまってるんだ。
〈ぶっちゃんヤマト〉の艦内で古代はひとつも仕事しないが、それでもあいつが法律だ。船内のルールはすべて古代が決める。ダメだダメだとあらゆる者に言う一方で、山本にだけ『キミ、特別です。』。それをテレビで放送すれば、見る人間はオレも山本なのだと思う。
〈教祖ぶっちゃん〉から『キミは特別、何をしてもいいのだよ』と認められた存在と思う。昔の〈桜花〉の特攻兵は、教官から『すげえ、お前は天才だ！ その腕なら空母を必ず沈められるぞ！』と言われて本気にするようなやつが選ばれてたっていうのが本当のところでね。永遠のレイとかイチとかいう映画はだから見なくても全部嘘とわかるんだ――あんたのＣＭがやってることもそれと同じさ。
あんたが巻紙広げるたんびにバカは、『いいや、オレは〈山本〉だ』と考える。悪いのはどうせオレより見る方だ。だから見る方を取り締まるべきだ。ソレイホ自身が自分で認めてるじゃないか。詐欺は騙す方よりも、騙される方が悪いんだ。痴漢は痴漢する方より、される女が悪いんだ。
殺人だって山本太郎が出るドラマや映画では、あれは必ず『加害者より被害者が悪い！ なぜ被害者の罪を問わない！』と絶叫する役じゃないか。コワモテ刑事はそれを最初は笑っていても、最後で必ず、『オレは間違っていた！ ヤマモトさん、アナタが正しい！ 殺人は殺す者より殺される方が悪いんだ！ 殺しを〈それ、違法です。〉とする法律は間違いだあっ！ うおおおんっ！』と号泣する。それが本当の正義だと古舘伊知郎も言っている。
だからいいんだ、何しても……〈山本〉はすぐそのように考える。テレビの勝手なアップロードは、違法だけれどおもしろそうだ。で、一回やってみたらできちゃった。別にマッポは捕まえに来ない。だからオレはいい腕なんだと勘違いして、もう一度、もう一度、と、振り込め詐欺犯や痴漢や放火魔のように捕まるまで続ける。
ソレイホさん、今の日本であんたがいちばんそれを煽っていることにあんたがぜんぜん気づいてないのもアキレるが、よりにもよって『だからってな』に『わかってんじゃねえか』かよ。それを言ったらそれこそおしまいなのがわかっていないとは……。
つくづく無能と言うしかないね。ソレイホよ。おれはそこらのキモヲタとはほんとに違うぞ。おれは自分が悪いことをやっているのがわかってる。何も言い訳する気はない。むしろあんたの取調室に来たくてこれをやってたんだ。
顔がイカツいだけの役者なんかほんとにちっとも怖くなんかないんでね。あんたにこれからもう役者など二度とできないような思いをさせてやるよ。しょせんあんたに『ブラック・レイン』の松田優作の役は無理だとはっきりわかるようにしてやる。時間はたっぷりあるんだろう。48でも、72でも、144時間だろうといい……まだまだとっくりあんたに言って聞かせてやるよ」
「ええと……天丼でも取りましょうか？」
「〈隼〉はダメだぞ。〈疾風〉にしてくれ」
「〈鍾馗〉で充分ですよ。わかってくださいよ」
（付記：このログは『捨てられた命』と同時）