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ヤマト航海日誌

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2015.7.19 シンガポール・ジン・スリング



ジンとチェリー・ブランデーを三対一。これにレモンの絞り汁とシュガー・シロップ、ベネディクティン・リキュールを加えてシェイク。ソーダで割ってチェリーとスライス・レモンを飾る――このカクテルを〈シンガポール・スリング〉という。だがレシピには異説もあって、パイナップルも絞って入れるとか、チェリー・ブランデーは後からとか、『ラッフルズのホテルで飲むシンガポール・スリングだけがシンガポール・スリングだ』なんていうのもある。

けっ、植民地領主かぶれが。ラッフルズなんか火ーつけて燃やしてそれきりにすればいいんだ。

ジンがベースのカクテルはそりゃうまいよな。おれなんか自分でミルクシェーカー振って作ったのしか飲んだことないが、それでいいさ。むしろホテルのバーでなんか、飲みたいとは思わねえ。だってまわりで金持ちがガハガハ言って笑ってそうで、酒がまずくなりそうじゃんよ。

しかし『ガハガハ笑う』と言えば、おれも好きなやつがひとりいる。南の海へ赴いて危機また危機をくぐり抜け、恐ろしい敵の待ち受ける血みどろの島を目指すのだ。そこでは多くの同朋が死に瀕しているという。救いを求めて泣く者達が皆殺しになる前に彼はたどり着けるのか? たとえ着いても巨大な敵に打ち勝つことができるのか? 正気であれば誰も行こうとしないはずのその地に、彼と彼の仲間達はガハガハ笑って飛び込んでいく。彼が求めるのはロマンだ。冒険のロマンだ。名前はガンバ。頑張り屋のガンバだ!

……って、なんだよお。『ガンバの冒険』が好きじゃ悪いかよお。あのね、言っておくけどね、『ガンバの冒険』は『宇宙戦艦ヤマト』オリジナル放映翌年である1975年の作品だ。同じ冒険ロマンでも、完成度・傑作度は間違いなく『ガンバ』が数倍上だろう。何しろ『ヤマト』ときたらどこもかしこもチグハグで、いま見直して正直言って、頭のネジが外れたやつらが作ったもんとしか思えない。やはりすべての元凶はプロデューサーの西崎義展……。

だが『ガンバ』にはそういうところがまったくないのだ。でもってすべてが上なのだ。しかし『ヤマト』と『ガンバ』には、相通じる点が多々ある。『ガンバ』の原作は昭和初め頃に書かれた斎藤惇夫という作家の『冒険者たち』だが、『ヤマト』もどうも戦前の少年向け冒険小説を宇宙に移したものというのが本当のところであるらしい……。

よくよく見れば『ガンバ』が『ヤマト』の最初期案『アステロイドなんとか』と同じ発想の企画なのは明白だ。いや、『アステロイドセブン』だか『エース』だか『タロウ』だかがどんなもんだったのかおれは知らんよ。知らんけどまあ想像つくわな。西崎義展が考えることなんてどうしようもねえ……。

違いは、強敵に立ち向かうのが『ガンバ』が非力なネズミであるのに対し、西崎義展やその後継者の出渕裕や山崎貴の好きなように作らせると、宇宙にそびえるくろがねの城スーパー戦艦アステロイドZが無敵の力をパイルダーオンさせたものになってしまうことだ。そこにはロマンも感動もない。弱小国を支配するのが悪の帝国から〈日本〉という名の別の悪の帝国に替わるだけの話になる。

『ガンバ』における〈ノロイ島〉とは、おれが思うにシンガポールがひょっとしたらモデルかもしれない……いや、まあ、戦前の東南アジアで白人の帝国に支配された地ならどこでもいいのだし、かつてはアジア全域がそうであったわけだけど、だがやっぱり当時の世界でシンガポールほど〈白イタチの根城〉と呼ぶにふさわしい場所は他にないんじゃねえかな。我ら水木しげるのマンガに描かれる〈ネズミ男〉の目で見ればさ。

さて前回、無謀参謀辻政信はおれの好きな誰かに似てると書いたけれども、ここで言おう。ガンバだ。辻はガンバに似ている。後先考えず行動し、無責任なこと極まりない。

おれの小説ではおれも悪く書いてるし、悪く書くしかねえやつだし、ノモンハンで誰かが背中を撃っとくべきであったのだろうとも思うのだけど、決して歴史家が〈鬼子〉のひとことで片付けてそれ以上論じる必要などないとする人物ではない――ようにおれには思えるのだ。この〈リアルガンバ〉が〈リアル白イタチ〉を倒した後にやったことを考えても……。

シンガポールのラッフルズ・ホテルで生まれた〈シンガポール・ジン・スリング〉。この有名なお酒と違い、辻政信がシェイクし過ぎた最悪のカクテルが世にも無名な〈シンガポール・カキョー・シュクセー〉……歴史家がこんなレシピは味わうまでもないものとして客にまったく勧めないため、日本じゃまるで知られていない。カクテル・ブックにはただ『まずい』の一語である。そんなものより〈リメンバー・パールハーバー〉や〈レイプ・オブ・ナンキン〉をどうぞ。なんと複雑で玄妙な味わい。〈タワー・オブ・ヒメユリ〉なんかもなかなか……。

けれどもおれはバカだから、単純なのがいいんだよお。最近テレビで『うしおととら』が始まってかなりうれしいのだけれど、〈混ぜるな危険〉みたいなやつがいいんだよお。男だったらそういうものを一発ガツンと飲んだらんかい。

辻政信はシンガポールを攻め落とすと、抗日分子の粛清を命じた。街の市民を殺しまくるのだ。人口が半分になるまで殺せ。華僑はひとり残らず殺せ。

こう書いてもどういうことかちょっとわからないかもしれん。そこで『ガンバ』で説明するが、あの七匹の戦いはノロイを倒したところで終わりとは限らないのである。

ノロイ島には〈ラッフルズ〉という宴場があって、そこにはノロイに身を売って栄耀栄華しちゃってる悪いネズミどもがいる……なんてことも有り得るのだ。『ファースト・ガンダム』でガルマがパーティなんかするあのホテルみたいなもんだ。「ノロイ様ぁ」なんてすり寄る〈イセリナネズミ〉がいるわけだな。

〈イセリナネズミ〉はノロイが死んだ後で当然ガンバ達を襲う。「ノロイ様の仇ーっ!」ってわけだ。彼らの狙いは第二のノロイを島に呼び、その下でまた自分達だけいい暮らしをすることにある。貧しく弱い同朋をイタチに差し出すことによってだ。

当時のアジア華僑というのは、はっきり言って、ネズミのくせにイタチに与(くみ)する〈イセリナネズミ〉なのである。自分ら以外のアジア人を奴隷として白人に売る奴隷商以外のなんでもありはしない。一応は〈アジア解放〉の旗を掲げる日本軍としては始末しなけりゃいけないのは確かな存在なのだ。

だがやり方はよく選ばなければならない。ノロイとのあの凄絶な死闘のなかでは、ずいぶんガンバとその仲間に逆らうネズミ達も出た。やむにやまれずノロイの手先になってしまう〈ミハルネズミ〉みたいなのも出た。実際、千匹のネズミのうち誰が〈イセリナ〉で誰がそうじゃないかなんてガンバ達が見てわかるわけがない。〈イセリナ〉を捕らえてどうするかなんていうのは、忠太の姉ちゃんに任せるべきことなのだ。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之