ヤマト航海日誌
みんながみんなそんなふうになるんじゃよう、またもし六位になったとしても二日後ゼロになるのは目に見えてんじゃねえか。で、今度こそ完全に、〈魔女〉との戦いの話が書き終わるまでただのひとりも開けなくなるよな。そのときはきっとこの日誌も、それまでずっと全員が目次だけを覗くわけだ。
しかしちょっと考えてみたまえ。そうなったときおれがそれでも小説の更新を続けると思うか? しねえよ。そんときゃ、またどっか他所(よそ)のサイトに図書館の本を濡らした話か、別の短い話を出して最初からやり直すよ。で、ここにはひたすらにこの日誌だけ書いてくわ。『敵中』の更新はまた本当に当分のあいだ休むしかなくなるだろな。
この一年の間にもおれはけっこう君らから学ばせてもらったからな。今度はもう少しうまくやるよ。
な。君らに勝ち目はない。いいかげんにおれをわかれや。今の状況が続く限りおれは更新ペースを上げない。毎日覗いてやがるんならカラでもいいから《読む》のボタンを押しやがれ。日にふたケタが開けるようならおれはペースを上げてやるよ。
そしてひとケタになったら落とす。今後はそれでいくからな。わかったら『目次だけを見てればいつか』という考えは捨てろ。
かつて日本の若者は〈零〉に乗って空で死ねたら別にそれでかまいはしないさ、爆弾抱いて敵艦に突っ込めと言われたとしてもかまいはしないさ、ただひとりの女の子がオレを覚えていてくれるならそれでなんにもかまいはしないさと言い残して空に散った。今の日本でそういう心は失われているらしい。だから『永遠の0』みたいな最低のものが売れてしまう。ハイ、アナタもこの本を読めばすぐ〈ゼロ戦〉を当社比1.3倍で飛ばせるようになりますよ。その昔はカミカゼなんていう問題もありましたが、今はもう大丈夫! なんの心配も要りません!
それに比べりゃ、『世界のためだ国のためだと言わない。ただひとりの女の子の涙を止めるために戦う。その力が得られるのなら命と引き換えにしてもいいさ』と言える心を持つやつの方がかわいげがあるというもんだ。とは言え世の中、テレビを見てるとずいぶんかわいい女の子が映ってるのでなんとなく見てると、それが実は男だったりすることがあるから油断できない。その子は語る。
「モデルになったきっかけは街を歩いてスカウトされたからなんですが、誰もアタシが男じゃないかと疑った人はいませんでした。なのにどうしてバレたかというと、アタシを知ってるほんの何人かの人が雑誌で見つけて『コイツは男だ!』って。それを信じる人もほとんどいなかったけど、しばらくして事務所の人から『キミが男だという噂がネットで広まってるんだけど、まさかそんなことないよねえ』。で、『すみません。男です……』」
ね。こうして必ずバレる。『島田なんてごくわずかな人間しか知らんのだから大丈夫では』という考えは通用しない。だから頭を切り替えて別の考えを探してみよう。
君がおれを殺しておれになりすますというのはどうだ。おれを見つけて拉致監禁し、メアドとパスワードを聞き出してからギュギューッとやって山に埋める。ついでにキャッシュカードもいただく。後は島田信之はもともといなかったことにして、『敵中横断二九六千光年』は最初から君が書いたものだとする――。
やってできないことはなかろう。我ながらナイスアイデアだ。これで行くのなら完璧だ。成功する確率はわずかであるがゼロではない。奇跡を起こせば確率論は無用だ。庵野秀明と将棋を指す人間は、いつも必ず奇跡を起こされ最後に敗けてしまうので、コンピュータがどれだけ強くなったとしても庵野だけはその〈使徒〉を止めて人類を救ってくれるに違いないと言っているとかいないとか。
「王手。庵野さん、これで詰みです」
「う……ちょっと待て。バリヤーね。オレの王はその桂馬では取れないバリヤーを持っている」
「まさか、横暴!?」
「『ヤマト』の最終回にヒントを得て密かに開発していた〈空間磁力メッキ〉が役に立った。この桂馬はイタダキだ。そしてこれより、オレの王はあらゆる方向に四マスずつ進める力を発揮する」
と、こうして庵野は勝った。世界はまたも奇跡によって救われたのだ。
「ちっ、庵野には勝てねえなあ。敗けたらビール一杯だよな」
「何言ってんだ。四倍で勝ったんだからビールは四杯だろう」
君はこういう相手とは二度と将棋を指してはいけない。
『トップをねらえ!』の頃から変わらぬこれが庵野演出だ。主人公が絶体絶命の危機に陥ったところで突然、なんの伏線もなしに彼もしくは彼女にはその苦境を乗り越える超絶パワーが自身も知らない形で備わっていたことが明かされて、ドドンと逆転勝利する。
『トップをねらえ!』は庵野秀明の作品のようで庵野秀明の作品でない。全六話中、一から三話は岡田斗司夫が案を出して、山賀博之が脚本を練り、樋口真嗣が絵コンテを切る。庵野秀明は監督と言ってもそれをそのままやってるだけの『ヤマト』で言えば石黒昇みたいなものだ。三話目まではなんてんですか、石立鉄男や西郷輝彦や車だん吉が主演を務める昭和のテレビドラマみたいな感じで、見てなかなかおもしろい。
けれども第四話目から、庵野の専横で完全なる庵野作品となってしまう。ストーリーなんかあったもんじゃないただの宝くじアニメとなるのだ。一等賞金五億円! すごい行列が並んでいるわ! みんな十万も買っている! ああどうしよう、アタシ達には、二千円しかお金がないわ。これでは当たる確率は限りなくゼロに近いじゃないの……。
と、そのときに大先生富永一朗が現れて、ヒロインふたりに激を飛ばす。バカもん、お前ら、わしの教えを忘れたか! 確率など気にするな! お前達には立派な武器がまだ残っているじゃないか!
「武器? そんな。武器なんてどこにも……」
とヒロインの――ええと、なんていうんだっけ。忘れたからモリヤマユウコという名にしよう。そしてそのお姉様のカワシマナオミ。富永はそのふたりに言う。
「おっぱいだよ」
ハッとするふたり。富永は続けて、
「そうだ、ナオミ。そしてユウコ。お前達ふたりには、まだおっぱいがあるじゃないか。お前達は、宝くじはカネを捨てることだと思っているだろう。だがそうじゃない。殖やすためにこれをやるのだ。当たらなければなんになる。誰もがそう考えるだろう。だが、女はそういうときでも立ち向かっていかねばならないときもある。そうしてこそ、初めて不可能が可能になってくるのだ。女の子のおっぱいだけが、邪悪な暴力に立ち向かえる最後の武器なのだ。お前達にはおっぱいがある。まだおっぱいがあるじゃないか」
「先生! ありがとうございます!」とモリヤマユウコ。「そうだわ、お姉様。アレで行きましょう!」
「アレね! よくってよ。スーパー……ボキャブラ……」
「天国……アターック!」
と叫んでふたりが服の前をはだけると、ああ、なんということか、それはもはやウツボのような、長くて太い巨大な乳房がビョビョビョビョ〜ンと飛び出してウニョウニョのたくり始めたではありませんか。なんとこのふたりの少女は、おっぱい星からやって来たおっぱい星人だったのだ。