父と娘、時々息子
13・旅で見える関係-父と母
フランスのホテルでは、お国柄がそうさせるのか、父は母と恋をした時の話しを聞かせてくれた。
私が当時働いていたお店仮称「D」は、父が常勤ピアニストとしていたところに、母がホールスタッフで入り出逢ったそうだ。
母は来阪するまで北陸地区で歌謡選手権荒らしと言われ、ちょっとした有名人だったらしい。
それほど歌う事と音楽が好きで、物怖じすることもなく父にしょっぱなから、ここをどうしたらいいのか熱心に聞いてきたそうだ。
父といえば、母を見て言葉にはしなかったものの、可愛いの三文字しか浮かんでこなかったそうだ。
話せば話す程、母は自分のことをしっかり見据えており、少し気が強くて、意地っ張りなところもあるが、コロコロと表情が変わり、愛嬌のある人だったと亡くなって15年経ってもなお娘にのろけていた。
母と出会った頃、父は既に名前が各方面に知れ渡っており、北新地のピアニストが何十人束になってかかって行っても傷一つ付けられないほどと言わせたほどの人になっていた。
その為か、出入りするテレビ局関係のお客さんが来ても、恐恐縮宿としあまりその空気が他のお客さんに映ることもあって、父に気軽に話しかける人はほんの一握りという状態だったらしい。
それを母と母のことを可愛がっていた先輩が、「熊五郎みたいな人のどこにあんな繊細な音が詰まってんのん?」など冗談を言いながら、キャッキャキャッキャとはねていたという。
だが、母だけはそう冗談を言いながらでも、何かを感じていたらしくてよく歌唱指導をお願いしつつ、細やかに気に留めていたのだとか。
「その姿がまた健気で・・・。」と言い出したので、「付き合うきっかけは?」と私から切り出した。