ぶどう畑のぶどうの鬼より
4 気が気じゃなくて
田舎は田舎で
愉快なことや
肝冷やすような
ことが毎日
ゴマンとある
でもあの日
おまえがここに
居座ってからは
論外だった
ボロトラックの
助手席に
おまえを乗せて
走った理由が
ふるってる
我が家にはない
水洗トイレを
借りたくて
2キロも離れた
となりの家まで
今すぐ行けと
さもないと
便秘で死ぬと
真顔でわめいた
ほんとにおまえが
どうかなっちまうかと
青ざめて
となりの俺は
アクセルベタ踏み
全速力
かと思えば
今年の害虫は
手ごわくて
去年までの
農薬じゃあ
とてもじゃないが
歯が立たなくて
村じゅうで
思案投げ首
それからいくらも
たたない夜
怖がりのくせに
夜 真っ暗な
畑でひとり
あろうことか
滝のような
大雨の中
ズブの素人の
分際で
憎っくき虫の
1匹ごとに
当たり散らして
つまみ取っては
食われた空洞に
モチ塗りたくって
幹をなで
励ました
効果てきめんの
農薬が
もうすぐ出来るって
言ってるのに
このわからず屋
風邪をひくぞと
連れて戻りに
行ったつもりが
可笑しいやら
いじらしいやら
必死なおまえの
後ろ姿に
声かけるのも
忘れてた
あの頃からだ
おまえが次に
何しでかすか
気が気じゃなくて
でも半分は
楽しみで
仕方なくなった
作品名:ぶどう畑のぶどうの鬼より 作家名:懐拳