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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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「疲れたわ」

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関東地方も梅雨が明けた。日中は35度に近い猛暑である。エヤコンのおかげで仕事中は暑さを感じない。営業で車から得意先まで歩くときにその暑さをまともに感じる。5,6っ歩歩くと額から汗が流れ出す。
 その日の夕食のとき、「疲れたわ」と妻が言った。僕はその言葉が妙に気になった。「今日は疲れたわ」と言ってくれたらそうではなかったのだが、僕には人生に疲れたと感じるように聞こえた。
 妻は甲状腺の癌を患い2度手術をした。首には半周ほど傷跡が残っている。その傷を妻は気にかけていた。特に外出の時はそうである。
「気にしなくていいよ。年なんだから」
ぼくは気休めになればと言ったつもりの言葉であった。妻は還暦を過ぎたばかりだ。
 テレビで見る妻と同じくらいの女優さんは本当に若く見える。妻は羨ましそうに見る。女の人は若いという願望があるのだろう。それは男も同じかも知れない。
 僕は食事が終わり「肩を揉もうか」と言った。
「ありがとう」我が家には旅館にある様なマッサージ機がある。半年くらいは使ったが「痒いところに手が届かない」と言って使わなくなった。
「少し右。少し強く」「いい気持」僕ならこんな具合である。
 人生も痒いところに気が付いてくれる神様がいないものかと思う。妻が落ち込んでいれば、庭のバラは気を利かせて一斉に咲いてくれ、その香りを妻に届けてくれる。あるいは、仔犬たちは妻にすり寄り体中を舐めたり。あるいは妻の好きな抹茶のケーキが届いたりとか。
 20分ほど肩を揉むと「すっかり疲れが取れたみたい」と妻は言った。
 子供たちが独立し、空き部屋ばかりの家で、昼間の妻は何をしながらいるのだろうか?
朝になり、食事の支度が楽しそうだった新婚時代。そのときだって2人きりだった。いつも見上げる空は青かった。いつも明日が楽しくて、やりたい事は満ち溢れていて、家具が1つづつ増えたり、料理が美味くなったり、子供が生まれたり・・・
 車から出た後の暑さのように、年を取ると少しの変化にも気になることが多くなる。僕には妻の事は何より気にかかる。
作品名:「疲れたわ」 作家名:吉葉ひろし