俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(下)
第19部 再会
ソウルに着いた
その足で
オープンしたての
おまえの店で
おまえのケーキを
味見するって
甘党でもない俺が
一大決心
ニューヨークからの
機内食
出てくるたんびに
断った
この2カ月
異国の街から
飽きもせず
恋しい
会いたい
顔が見たいと
女々しく毎日
書いて送った
おまえが毎日
ポストの前で
呆れた顔で
笑おうが
のっぴきならない
証拠物件
何十枚も
送りつづけて
この先
自分の首絞めようが
そんなこと
気にもならなかった
この2カ月
夜ごと
はがきを書く楽しみで
どうにかこうにか
昼間を耐えた
笑いたきゃ笑え
潔く
人を愛する
覚悟ができたら
弱みが弱みじゃ
なくなる不思議
身をもって
俺に教えたのは
おまえ
だけど
おまえとの再会が
めでたくすんなり
運ぼうなんて
逆立ちしたって
あり得ない相談
17番地の住人に
送ったはずの53枚
郵便屋だって
赤面しそうな53枚
ご丁寧にも
1枚残らず
27番地と
書いて送った差出人は
言うまでもなく
「宛先不明保管預かり」の
はがきの束を
追い越して
“音信不通の”
2か月ぶりに
飛んで火に入る夏の虫
久々の再会は
世にも笑える
悲喜劇だった
おまえの開口一番は
けんもほろろに
「お宅 どちら様?」
2か月ぶりの
ソウルの街で
逃げ回るおまえと
追っかけっこ
言われるままに
土下座もした
車で先回り
してみたものの
予想どおりの
門前払い
おまえの家の
塀の前
待てど暮らせど
なしのつぶてで
ゆうに半日
シート倒して
待ちぼうけにも
甘んじた
でもこれが
53回書きなぐった
夢を叶える代償なら
俺にとっては
どれもこれも
楽しいレクリエーション
それだけじゃない
音信不通の罪人は
半日
耳をすましてたけど
お袋さんや姉さんが
おまえをヒジンと
呼ぶ声を
一度も
耳にしなかった
発つ前
俺は言ったはず
おまえがそれほど
望むなら
もうこれ以上
反対しない
ヒジンになれと
何をトチ狂ったか
改名もせず
おまえは未だに
サムスンだった
だから俺は
大好きな子の
引っ越しが
取り消しだって
聞かされた
子どもみたいに
ただわけもなく
うれしくて
時差ボケで眠いのも
目が回りそうなほど
腹ペコなのも
ころっと忘れてた
おまえと歩く
これから先が
とてつもなく
にぎやかで
楽しくて
退屈なんか
したくたって
出来ないのは
目に見えてる
それなら
久々の再会から
とことん
もつれてくれていい
望むところだ
そうこなくっちゃ
それこそ
幸先のいい
滑り出しってもんだ
な?
ヒジンになり損ないの
“サムスン”?
倒したシートで
天井仰いで
目を閉じた
あと1日ぐらい
許してもらえなくても
俺は いっこうに
平気だった
作品名:俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(下) 作家名:懐拳