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俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(下)

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第18部 されどハルラ山



いいかげん下りよう
日が暮れる

天下のハルラ山の
てっぺんで
こんなボロっちい
物見やぐらの
下にもぐって
夜を明かすなんて
まっぴらごめん

良かれと急かすと
やおら一発
あらよと受けたら
もう一発

雨ならぬ
ゲンコツの雨
右に左に降ってきた

ご立腹には
同情するけど
相手が悪い

昨日今日のつきあいじゃ
あるまいし
よりによって
俺に向かって
同じ手が
そうそう何度も
通用するか

問答無用
これ以上食らっちゃ
こっちがもたない
このゲンコツは
しばらく預かる

だいたい
迎えに来たのに
ふてくされるなんて
お門違いも
甚だしい

そんなら
最初っから
一緒に登れ
俺は前から
誘ってるのに

抗議の急襲
かわされて
両手の自由も
奪われて
おまえの機嫌は
台風寸前

そのわりに
俺のチョコパイ
見るなり
4つも平らげた

目の前に
何も言わずに差し出した
水筒のふた

わかめスープと
一目で察した
おまえの目元が
少しうるんで見えたのは
気のせいだったか
どうだったか

俺の顔と
わかめスープと
かわりばんこに見比べて
ぎこちなく
顔を隠して
飲んだっけ

帰りの荷物を
軽くするとかしないとか
あいかわらず
恩着せがましく
つぶやきながら

戻る道々
おまえの足に
直立二足歩行だなんて
もう どだい
無理な注文

はなっから
狂気の沙汰なんだ
山に無縁の
パティシエ女が
こんな嵐に
登ろうなんて

ふもとのホテルの
入り口に
倒れこんだ
だけでも上出来

部屋のベッドに
つき転がして
無理やり 足腰
マッサージした

痛いの痛くないの
すっとん狂に
わめき散らす
おまえの声

隣の部屋の客たちが
あらぬ誤解を
したかしないか
神のみぞ知る
ご愛敬だ

いじらしかった

いつだったか
俺が聞かせた
打ち明け話
忘れもしないで
たったひとりで
慣れない山道
登ったおまえ

一途なところは
子どもみたいで
あんまりにも
いじらしくて
追いかけずには
いられなかった

山のヤの字も
知らないおまえを
いつ来るともしれない
頂上で待った
あの2時間

手をこまねいて
安否を案じる
地獄の責め苦だったから

瀕死の
筋肉痛患者だろうが
疲労困憊
恥じらいもなく
ベッドに
ぶっ倒れてようが

とにかく無事で
今 目の前に
いることが
ただうれしくて

おまえさえあのまま
神妙だったら

少なくとも
俺の鼻先で
あの紙切れさえ
見せびらかしたり
しなかったら

俺はあの晩
あのままずっと
おまえの足を
さすってた

少しでも
痛みがまぎれて
眠るまで
さすってて
やりたかった

でも
ハルラ山の夜が
穏やかに更けるなんて
はずもなく

大変!
びしょぬれ!
一大事!と

突然リュックに
駆けよって
おまえがあたふた
取り出したもの

こともあろうに
改名認める
役所の許可書

開いた口が
ふさがらなかった

その許可書とやらは
お守りか?
山登るのに
ご利益あるのか?

そもそも
改名なんて
まだほざいてる?

俺がこれほど
反対してるのに
このわからずや!

堪忍袋も
緒が切れた

いや
やすやすと
緒なんか切らして
いるようじゃ
俺はまだまだ
修行が足りない

紙切れ
手荒にひったくるなり
びりびりに
引き裂いてやった
次の瞬間

名前に賭ける
おまえの執念
甘く見すぎた
自分の甘さを
俺は呪った

頂上の嵐なんか
かわいいもんだった

今の今まで
立って歩けも
しなかったのは
どこのどいつだ

俺の背中に
飛び乗るや
殴るわ蹴るわ
突き飛ばすわの
大盤振る舞い

もちろん豪華な
罵詈雑言の
伴奏つきで

下手するとあの晩
俺の肋骨は
1本ぐらい
折れてたのかも
しれないけど

だけど不思議と
腹も立たずに
俺は 嵐のなすがまま

たかがハルラ山
されどハルラ山

おまえにも俺にも
とげみたいに
ずっと心に
ささった山で

でも
心の底から
おまえといっしょに
登りたかった山だから

その記念すべき
一夜なら
少々ボコボコに
なるくらい
お安い御用

気がすむまで
とことん殴れ
蹴っ飛ばせ

改名も
スキンシップも
前途は
多難も多難だけど
俄然やる気が
わいてきた

あれが
キングサイズだったなんて
俺は今でも
信じてない

気がついたら
男の俺が
ベッドから
突き落とされてた

それにもちろん
あのすさまじい
乱闘以上の
スキンシップを

おまえは
あの晩
受け入れては
くれなかった